第27話 闇の皇子は一位しかとれない

 試験を終えた翌朝。

 テリオスは校門でフィオナと出会うなり腕を引っ張られている。


「テリオス様、はやくはやく!」

「あのなぁフィオナ、試験結果なんて急いで見に行くものでもないだろ?」


 子犬のようにはしゃぐフィオナの足は止まらない。


「いいえ、テリオス様の聡明さを知らしめる絶好の機会ですから! きっと一位間違いなしです!」

「言っておくけどな、うちの頭脳担当はエヴァンなんだよ……そうだよな?」


 一歩後ろから付いてくるエヴァンに話を振る。


「私は……そうですね、自己採点ですと全科目満点でしたが」

「ほらぁ」

「ですがその程度、殿下なら越えてくれると思っていますよ」

「いやいや、どうやったら満点を越えられるんだよ」






 クラス替えの時と同じ場所には全校生徒の点数が学年別に張り出されていた。


「エリーゼが487点、フィオナが490点……ツバキは497点かぁ」


 一位から目を背けつつ、五位から読み上げていくテリオス。ちなみに六位は443点と、大幅な開きがあった。


「わたくしがフィオナさんとツバキさんに、負けた……?」

「ま、人は見かけによらないってね」


 ふふんと鼻を鳴らすツバキ。いつもの明るい雰囲気に似合わず、三人の中では一番勉学に秀いでていた。


「で、エヴァンは500点と」

「殿下の侍従ですから、この程度は」


 二位エヴァンの横には彼の自己採点通りの点数が並んでいた。


「で、俺はっと」


 テリオスは苦笑いしながら、一位の欄を見直した。


「1000点かぁ」


 500点満点中、1000点。テリオスの点数だけ異常だった。


「流石ですテリオス様……やはりテリオス様の素晴らしさは試験程度では推し量れなかったのですね」

「あのねフィオナ、これどう考えてもおかしいからね?」


 冷静にツッコむテリオス。

 誰がどう考えても異常な点数だというのに、周囲からは感嘆の声が上がっていた。


「いや、それであってるよテリオス君」


 側に立っていたグラス先生が補足した。


「グラス先生、おはようございます」

「うんおはよう。それで点数の内訳だけどね……解釈が素晴らしくてね。今までの理論がいくつもひっくり返ったから、そのお礼ということで」

「だからってこんな点数にはならないのでは?」


 テリオスに心当たりがないわけでもなかったが、一応抗議をしてみた。


「なるんだなこれが。何せ学園設立以来の謎が解かれたんだからね。伝説の英雄がもたらした知識だったんだけど……彼、お勉強は苦手だったみたいでね」


 眼鏡のズレを直しながら続ける。


「名前は知ってるけど仕組みは知らない。だから今までは予想で運用してた……その答えがやって来たというわけさ。皆喜んでいるよ? これで研究が大幅に進むってね。だから1000点! おめでとう!」

「……ありがとうございます」


 心当たりを指摘されて、しぶしぶ礼を返すテリオス。やり取りを聞いていた他の生徒たちから拍手が上がるので、もはや諦めるしかない。


「さて、早速研究に移りたいところではあるんだけど……その前に補習をしないとね」

「補習?」


 グラスが成績表の一番下を指差した。


「ダーレス=イザール……48点かぁ」


 燦然と輝く無惨な点数に思わず同情してしまうテリオス。


「テリオス……ッ!」


 歯ぎしり混じりの声に振り向けば、そこには件の有名人の姿があった。


「ちょっとぐらい」


 ダーレスは成績表の一位を二度見して、悔しそうにテリオスの襟を掴んだ。


「かなりお勉強ができるからって……調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


 ちゃんと言い直して偉いなと思いつつ、テリオスは掴まれた腕をそっと払う。

 それが余計に気に触ったのか、ダーレスは鼻息を荒くして立ち去った。


「何あの人、感じ悪い……」

「っていうかまだ学園にいたの? 最悪」


 そんなふたりの様子を眺めていた他の生徒たちから、ごく自然に陰口が湧いてきた。


「同じ『帝国の皇子』でも、テリオス様とは雲泥の差だよなぁ」

「それに比べてテリオス様は……」

「流石テリオス様だ……」

「さすテリ……」


 さらにいつものが始まったので、うんざりしてしまうテリオス。




 唐突に、天啓が下りてきた。




「なぁエヴァン、思ったんだが」

「はいどうぞ」


 咳払いしながらテリオスは考えた。学園での嫌われ者を目指したいなら。


「ダーレスの真似をしたら……俺も嫌われるんじゃないか?」

「ハハッ」


 遅れて漏れた乾いた笑いには、いつもの感想が籠もっていた。




 いやぁ、それは無理だろうと。


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