第10話 闇の皇子は全然わかってない

 ――ビショビショに汗かいてコーラで水分補給してぇ~~~~っ。


 雑兵共を蹂躙しながら、テリオスはふと思い出す。そう言えばこんな戦い方はゲームでもしていたな、と。




 シミュレーションゲームにおいて、一人のキャラクターを活躍させる方法は限られている。一ターンに一度しか攻撃できない、という仕様のせいだ。


 だが抜け道は当然ある。それは反撃なら何度でも行える、という点だ。だからテリオスの取った『超強いキャラを単騎で敵陣のど真ん中に突撃させる』という戦法はある意味合理的ではあった。


 もっともその敵陣からすれば、味方が攻撃する度に味方が減るという悪夢以外の何物でも無いのだが。


 


「どうした、もう終わりか?」


 そんな思い出に浸っていると、立っている生徒の姿は見えなくなっていた。流した汗をコーラで補充しようとしていた彼にとって、それは不本意な結果だった。


 テリオスがつまらなさそうにあくびをすると、二つの攻撃が彼を襲う。


「まだ二人残っていたか」


 矢と火球がテリオスの頭目掛けて飛んでくるが、彼はそれをつまらなさそうに二つの剣で払い落とす。


「化け物だね、大将」

「ええ、認めざるを得ませんわ……その力を」


 他の生徒達に守られていたおかげで、ツバキとエリーゼはまだ倒れていなかった。ゆっくりと立ち上がりながら、二人は同時に得物を構える。


「エリーゼ、合わせろ!」

「言われなくても!」


 力一杯弓を引き切るツバキと、杖を構え呪文を唱え始めるエリーゼ。そんな二人を見たテリオスは、ついため息をついてしまう。


「あのなぁお前ら」


 二人の強さはテリオスも知っていた。ゲームでは両陣営を代表するヒロインなのだから、弱くないのは当然だ。


 だがこれはゲームではなく、一ターンに一回しか攻撃出来ないなどという制限などない。


「大声で合図するなっての」


 だから、同時に倒す。テリオスは逆方向にいる二人めがけて、握っていた剣を投げつける。ツバキには見事命中するも、エリーゼには火魔法で弾かれてしまった。


 ちゃんと訓練しとけばよかったなと一瞬だけ後悔したテリオスは、適当な剣を拾い上げエリーゼとの距離を一瞬で詰める。エリーゼはまた杖を構え直すも、首筋には冷たい刃が当てられていた。


「お見事です、テリオス殿下」

「世辞か?」

「事実を口にしたまでです……貴方はそのお力で何を為さるおつもりですか?」


 エリーゼはテリオスの瞳をじっと見つめた。この男が本気を出せば、王国なぞ地図から消えてしまうだろう。その真意を確かめるべく投げかけた言葉だったが。


「決まってるだろ、そんなの」


 テリオスは笑う。彼の頭の中に王国への侵略などあろう筈もなく。


「ピザをコーラで流し込むんだよ」


 ただ仲間達との時間だけが、彼の唯一の願いだった。






「思ったよりお早いですね、でん」

「テリオス様!」


 自陣に戻るや否や、フィオナが彼に駆け寄ってきた。そしてすぐに傅くと、謝罪の言葉を口にする。


「申し訳ございませんでした、テリオス様……貴方に二度も救われたこの私が、貴方の強さを疑ってしまいました。どんな罰でもお申し付け下さい!」


 戦いを見続けていたフィオナは深く自分を責めていた。現実的などという尺度で、尊敬すべき恩人を測ってしまったと。


「いや、そんなの気にしな」


 いよ、と言い終わる前にエヴァンの咳払いが響く。彼は目で進言する、フィオナの望みを叶えなさいと。

 

「罰ねぇ」


 テリオスは腕を組み、今日一番の苦悶を浮かべる。遠くで小鳥が三回鳴いてようやく、テリオスは思い出す。


「あー……フィオナよ。それではお前に罰を与える」


 そもそも自分は、なぜ『主人公』を探していたのかと。


 答えは単純だ、自分が殺されたくないからだ。


「これからお前は」


 フィオナの肩を優しく叩き、テリオスは笑顔を浮かべる。ならば今この瞬間に、俺を殺さないと誓わせたらいいじゃないか。だが未来の話など信じられる訳がないから、ちょっと工夫をしなければ。


 そんな結論に至ってしまった彼が下した彼女への罰は。


「このテリオス=エル=ヴァルトフェルドに忠誠を誓い続けろ……いついかなる時でもな」


 二人の運命を決めるものになってしまった。


「はい、テリオス様」


 フィオナは顔を上げ、真っ直ぐとテリオスの瞳を見つめる。


「この身も、心も、未来さえも……全て貴方に捧げます」


 フィオナにはもう迷いはない。今この瞬間よりこの命は、テリオス=エル=ヴァルトフェルドのものになった。それは王子様に助けられた少女が夢にまで見た、最高の未来だった。


「ああ、頼んだぞ」

「はいっ!」


 二人は満面の笑みを浮かべる。だからエヴァンも、自然と笑顔を零してしまう。




 ――この人何にもわかってないんだろうな、と。




「何だよエヴァン、その何か言いたそうな顔は」

「いえいえ、流石の殿下も学園で学ぶべきことは多いのだなと関心していたところです」


 苦笑いを浮かべるエヴァンがテリオスにコーラを手渡す。だが思いの外テリオスの帰還が早かったせいで、コーラはまだぬるかったから。


「コーラの冷やし方とかか?」


 口を尖らせテリオスが言えば、今度こそエヴァンは声を漏らす。


「ハハッ」


 冗談でしょう、と飲み込んでからエヴァンは主にコーラの瓶を掲げる。




 どうかこの無敵の主が、学園で女心を学べますように、と願いながら。






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