第8話 比喩
直喩、暗喩、擬人法、そういうものを、おそらく国語の教科書で習っていると思う。基礎的なものだが、小説において欠かせない要素だ。
比喩が、小説を小説たらしめる。
直接的に述べないのが、小説の醍醐味だからである。
とはいえ、比喩というものを過剰に使いすぎるとゴテゴテするようにも思う。個人的なイメージで言うと、バロック建築である。巧みで、華やかで、繊細なのだが、やはり装飾過多のきらいはあるので、見る人を選ぶ。
しかし、比喩が全くなかったら、その作品は小説としての魅力に欠けると思う。
「りんご」「赤いりんご」「夕日で染め上げたようなりんご」
同じりんごを表現しようとしても、どれだけ言葉を尽くすかによって、見え方は違ってくる。例えば「りんご」はどんなりんごか、一般的なイメージしか浮かばない。「赤いりんご」となれば描写の域に入ってくるから、「ああ、赤いりんごなんだな」とはわかる。
しかし、「夕日で染め上げたようなりんご」と言えば、どんな系統の赤なのかも何となくイメージできるし、りんごの繊細さや美しさまでが目に浮かぶ。比喩によって、埋め込める情報量は格段に増えるのである。
ちなみに、比喩は別に美しくなくていい。
素朴な、皆が何となく「わかる~」となるような比喩でもいい。目的は「小説を美しくする」ことではなく、「小説を具体的にする」「小説世界をより鮮やかにする」ということなので、別に美を追求する必要はない。しても良いが、必須ではない。
比喩を磨くにはどうすればいいか。
それは、いろいろなものを見て目を肥やすのが一番だと思う。
比喩は、基本的に「〇〇のような△△」という構図で成立する。それは暗喩であっても、擬人法であってもそうだ。言葉を省いているだけであって、構造としては左記があてはまる。
そして、「〇〇のような△△」の〇〇と△△は入れ替え可能である。
例えば、「夕日のような色のりんご」と言うこともできるし、「りんごのような色の夕日」と言うこともできる。2つの名詞を知っていれば、2通りの比喩を使えるのだ。
比喩に使える名詞のストックを蓄えることで、何通りもの比喩を用いることができるようになる。それを小説や場面ごとにうまく使い分けることで、格段に小説が具体的になるのだと思う。
最終的に、「こういう場面を書きたい」という時に、スッと適切な比喩が出てくるようにまでなれば比喩マスターだと思うが、実質私はそこまで行っていない。
毎回、「こういう場面だからーこういうイメージの比喩が使いたいんだけどーいい比喩が出てこないー」と頭を抱える。第九が鳴り響くまでは、いつもこういう状態である。
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