第23話 予兆 晴明
京都五芒星。
京都のとある神社が中心となり、各所に伸びる龍脈にそって繋がった五角形の聖域であり、それらを結び合わせることによって星となり術が完成した。
この世に撒き散らされた呪力を取り込み続け、その呪力を力に変化することで半永続的に結界を作り続けるという過去に生きた歴代の陰陽師たちが編み出した、魔除けの護符。
その中心に位置する神社の名が――晴明神社である。
昼間は観光客で賑わう神社だが、現在の時刻は深夜一時。
そんな、人も獣も寝静まる真夜中でも晴明神社本殿の明かりは消えていなかった。
「――――先の
しかし、聞こえてくる声に感情はない。少しの抑揚はあれど、表情が見えないからかとても不気味であった。
「して……貸した式神の姿が見えんようだが?」
「――申し訳ございません。お館様からお貸しいただいた式神に関しては……私の呪力に耐えきれませんでした。戦いの最中、この呪力に耐えきれずに自壊致しました」
星蘭と呼ばれた、凛とした気高さをまとう女性は式神符を取り出す。
呪力を流しすぎた影響によって、式神に供給される呪力が安定していない。そのため式神符は弾け飛んだかのように破けていた。
「……これも、晴明の血筋ゆえ仕方あるまい。許そう。それに――――もうすぐ〝晴明の右腕〟だった者の後継者が現れる。これは……それまでの代わりにすぎん」
低い声と共に、星蘭の眼の前にあった式神符が灰に変わる。
「〝晴明の右腕〟……その後継者というのは?」
「お前の呪力に耐える存在、つまり鬼だ。春には
「はい。必ずや、私の
「……後ほど式神符を支給する。今日はもう休むといい」
「はい、では失礼します」
背後の襖を開き、その場を出る。
暖色の電球が長い廊下を照らし、日本家屋伝統の
その長い廊下を歩き、別の屋敷へと繋がる通路を通ればようやく自室。
帰ってくるのだけでも五分以上を必要とする。トイレがある一定間隔で置かれているほど、その屋敷は広かった。
「……ふぅ」
自室に戻り、体が沈むように柔らかいベットに体を預ける。
「〝鬼〟か……しかも〝晴明の右腕〟の後継者、ということは鬼神の後継者か。陰陽寮にも少なからずその才能を持った者がいるけど、本物会うのは初めてだな」
史実によれば、この京都を縄張りにしていた伝説の鬼を対峙し討伐したことで式神にしたとされていた。
「その後継者ならば――――私の呪力に耐えてくれるはずだ」
陰陽寮からの依頼があり、瞳を閉じればすぐにでも眠ってしまいそうな時刻、星蘭はふと違和感を感じて瞑想するように瞼をゆっくりと閉じていく。
すると、周囲に漂う呪力を感知した。
……ふぅ、と一息ついてから常備してある一枚の札を取り出し呪力を流す。
「〝淀みを弾け〟」
周囲に漂う呪力を部屋から弾き出し、外へと流す。
「また誰かの仕業か……」
呪力を部屋から弾き飛ばしたからか、心なし空気が澄んでいるように感じる。呪力を感じ取ることが出来る陰陽師という存在だからこそ、こんな状態では眠れない。
「こっちはただでさえ眠れてないってのにさ……」
瞼を閉じると呪力を感じる。
それは呪力に対しての感受性の高さ故であった。
例えるなら、真夜中に少し幅の狭い道を歩いている時にふと途中で後を振り返ったりすることがないだろうか?
そういった直感的に生み出させる違和感に対する反応。そして一度気にし始めるとほんの数分間の間、その違和感に心がざわついてしまう。
そんなざわついた違和感を視界に映すことが出来るのだから、眠れるわけがない。
更に言えば、星蘭は別件でも夜を邪魔されていた。
それは――――
「まぁ、もう結構な付き合いだから問題はないけど」
取り込み切れない呪力に飲み込まれる、自分を見る夢。
眠りが深くなるにつれて、指先から侵食され……気がつけば自分自信が飲み込まれる寸前――そうやって目が覚める。
自分が陰陽師になると決めた六才の時から、ずっと……ずっと見ている夢だ。
「……はぁ」
あの心臓が縮まるような感覚と共に目が覚める。
流石にもうすぐ十年間の付き合いだ、もう体は慣れ始めている。
しかし、心はまだ……朝を迎えることを怯えていた。
「…………お風呂に入ろ」
この心を誰かに気づかれるわけにはいかない。
私は助ける側なのだから。
怯えているだけなら、まだ立てる。
もう何も奪われないように。
今代の安倍晴明として――――全ての呪いを祓ってみせる。
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