第15話 鬼神覚醒 弐
ありえないッ!
既に呪力に飲まれていた存在が、戻って来るなどっ……ありえるはずがない!!
「どうした? 立てよ」
なんだ、なんなんだこいつは!?
弓削鏡は戦慄していた。
折れた大木により掛かることによって上体を起こし、何とか体を支えているが体の震えが止まらない。
それは呪力によるものなのか、それともダメージによるものか――――
「ぐっ……式神創造――」
弓削は胸元に仕込んである札を束で取り出しばら撒いた。すると札が付着した木々が蛇の形に変化していく。そしてその式神たち呪力を込めた。
すると、それらは仁が抱えている姉の方へ襲いかかり――
「ッ!?」
「
爆発するはずだった。
しかし、爆発音すらも聞こえない。
それらは仁が纏う炎の呪力によって起爆する直前で灰と化した。
「【
四神から得られる加護に大小はない。
本人が使いこなせるか否か、そういう問題になってくる力だ。
故に加護の本領を発揮すること自体がとても困難である。
熟練された陰陽師、それこそ特級の称号をもつ陰陽師ですらもその加護一つの力を最大限発揮出来ているかどうかというところだ。
しかし、鏑木仁はどうだろうか――――【四神印】と呼ばれる全ての加護を持ちながらも、その一つである【
「(なんだ? 今の)」
本来であれば触れた瞬間に爆発する術である式神創造――創爆。
確かに意表を突く攻撃であったが、仁の左肩に刻まれた【
それは仁の呪力がなくなるまで続くのだが、一時的に怨霊への領域に踏み込んでしまったがためにありとあらゆる負の感情がそのまま呪力へと変換されているため、仁の呪力がなくなることはない。
少なくとも、ここに溜まった〝巻き込まれた人達の呪い〟がある限り仁は無限に防ぎ続ける。
「(まぁ、いっか。そんなことより、なんか凄い動きしてねぇか? 俺の体)」
仁は、【四神印】を刻まれた存在。
【四神印】自体が、全身に強力な身体強化の法術を施しているのと変わらないのだ。本来の動きに〝力〟が純粋に加算される。威力、速さ、体の性能が既に人外の域である。つまり、今の仁にとって呪力を用いた攻撃も防御も無意味。唯一、勝つ手段があるとすれば徒手空拳による肉弾戦のみ。
「もう一回やってみるか」
体重移動によって前傾姿勢となり、そのまま一気に縮地をすることによる接近。そしてそのまま攻撃体制に入ることが出来る歩法。
歩式順術――合衝
本来この歩法は相手と自分の間合いが重なった時に〝虚〟を突くために行う技術でもあるが、今回は違う。
単純に地面を蹴り上げ、相手に接近することだけを考えた動き。
「うおっ!?」
速ッ!
地面が爆ぜる音と同時に、弓削の目の前に仁の足の裏が迫っていた。
まるで銃弾のような刺突が弓削の顔面に突き刺さると、頭と足が反転するように回転し体が弓なりに曲がり宙へ舞った。
「がはっ……!!」
相手の距離は目測で三メートルを超えていた、本来であればこの技術はこの距離が届く技ではない。それでも届いたという、自分でも驚くような速度と距離はもう人間の領域を抜けていると理解した。
「脚式順術――
体式順術――螺旋による体のひねり。その渦を利用し体を反転させながら宙を舞った弓削の胴体に回し蹴りを放ち、弓削の体は赤い鳥居の方向へと吹き飛んでいった。
「……?」
違和感――――。
そしてその違和感の正体はすぐに分かった。
「本当に素晴らしい一撃だ」
まるで垂幕のような薄暗い木陰を現れた人物――――それは弓削であった。
「ほぉ……気づいていたか?」
「いやなんか……勘?」
一撃目から少し違和感は感じた。
蹴った時に何だか土偶式神と似た、物が詰め込まれた袋を弾いた感触があった。
「勘……か、まるで野生動物だな。私の偽像をではどこから変わっていたかは分からないというわけだ……実は最初の足刀を貰った時に準備していた。寄りかかっていた大木と私の血液から式神を創造し、身代わりが蹴り飛ばされている時に私は回復していたというわけだ」
確かに今の弓削の姿に怪我はない。
完全に砕いた鼻っ柱も再生している様子だ。
「どうやって移動した?」
「陰陽師は影を移動することが出来る。最初に習う基礎技術の一つだ」
「影を……移動、ね。それじゃ傷も?」
「いやこれは違う。この再生方法は陰陽師の歴史の中で禁忌に触れていてね、陰陽師としては罰せられる行為の一つだ。私の体は半分近く呪力によって構成されていてね、所謂〝堕ちている〟のだよ」
……言われて見れば体の半分が黒く視える。
そう言えばさっき蹴り飛ばしたのは真っ黒だったな……。
「――――因み言うと、この再生は他人も治すことが出来る」
「……何が言いたい」
「つまり、その抱えている少女も治療し蘇らせる事ができるということだ。どうだ、私に協力してみる気はないか? そうすれば少女一人くらいなら生き返らえせてやろう」
「……蘇らせる? それって――――」
さっき聞いたばっかだな。
なんだこいつも知ってるのか? なんかあれ……内緒話みたいな感じだったけど。
「もちろん可能だとも、大きく括れば私が追求している分野だ。そういえば自己紹介がまだだったな、私は
「俺は鏑木仁」
「(鏑木? ……あぁ、だからその少女を――――確か名前は鏑木さくら、だったな)それで、どうだ……私に協力する気になかったな?」
所詮はただの子供。
呪力に飲まれている状況でも手を放すことはなかった大切な存在を蘇らせることが出来ると言われて、選択肢があるわけがないだろう。
いくら【四神印】をもっているからと言っても、戦闘にならなければどうということはない。
ニヒルに笑い、この天秤がどちらに傾くか確信していた弓削は仁から二つ返事の返答を待った。
しかし、返ってきた言葉は……
「いや、普通にしねぇよ?」
「……?」
拒否の言葉だった。
「というか、何であんた……俺が方法を知らない前提で話しを進めてんだよ。俺だって、あんな状態から普通にここに戻って来たわけじゃない」
鏑木仁は知っている――この現実を変えられることを。
【星の結界】にて知ることが出来た平安の伝説。
陰陽師であれば、誰もが一度は耳にしたことがある真実どうかも分からない眉唾ものとかしていった……その〝術〟。
〝死〟という概念すらも無かったことにする、世界に刻まれた
その名も、
「秘術――泰山府君」
「なッ!? その術をどこで知った!!」
「ついさっき。まぁ……俺も詳しくは知らねぇけど、確か|元凶あんたをぶっ飛ばせばいいらしい」
「私を……?」
「あぁ」
仁が空を見上げた、それに釣られるように弓削も空を見上げる。
すると――――青く澄んだ空に巨大な五芒星が浮かび上がっていた。
「なんだ……あれは?」
まるで空を覆い隠すような呪力。
あの規模では明確に術として構築できているはずがない。そもそも陰陽師として〝術〟を学んでいない人間が出来るはずもない。そう頭では思いながらも、陰陽師として生きてきた直感が警鐘を鳴らし続けていた。
「さぁな、詳しくは知らねぇって言ったろ? 俺が現実に帰って来た時に空に向かって体から何かが流れていった感じしたけど――――ただまぁ、そんなことはどうでもいいんだわ」
どういう理屈で、どういう理由で、とか本当にどうでもいい。
学校行って、友達の楽しく会話して、鍛錬して、家族で美味い飯を食べる。
俺が望んでいることはただ一つ――――こんな
空に浮かぶ五芒星が回転しながら、徐々に空を覆いつくしていく。
それと共に仁の身体に刻まれた【四神印】が瞼を細めるほどの強い輝きを放った。
「し、式神創造―――― 」
懐から札を取り出すも、仁から溢れ出す
しかも、取り出した瞬間からだ。
弓削が少しでも呪力を流せば、そこから呪力ごと灰と化す。何枚でも、何枚でも、全てが灰となっていく。
「貴様……ッ、一体何をするつもりだ!!」
強い輝きを放つこの五芒星の下、その虹色にも見える呪力が空へ放出し始めた仁に向けて叫ぶ。
「さっさと日常を取り戻す」
秘術――泰山府君。
陰陽師の伝説が、現代に顕現する……。
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