凍死ごっこ
雪が降りしきる、寒い日でした。ふたりの幽霊は
ふたりはもう死んでいて、寒さも時間も気にならない幽霊なので、二日も三日も固まったりしていました。追う鬼も逃げる子も一緒に固まっていました。ふたり仲よく凍りついていました。そうして、雪が降りしきるその日、路上で固まって死んでいる人を見つけたのです。
「おい、この人も固まってるぜ」
鬼のマサシが、死体を見下ろして言いました。
「低体温症かな?」
先ほどタッチされたヤスシが、固まるのをやめて言いました。
「雪だるま、作ろうぜ」
「うん、いいよ」
マサシとヤスシは、死体の隣で雪だるまを作り始めました。もちろん、ふたりは幽霊ですから、本当はこの世に存在していません。雪に触れても、雪は彼らを知りません。世界は彼らを認めません。だから、幽霊たちの作る雪だるまも、いわば雪だるまの幽霊です。だれにも見えません。ふたりだけの雪だるまです。幽霊が生み出した幽霊です。
「雪って、幽霊みたいだなあ」
「なんで? 消えるから?」
「そうだよ、初めからなかったみたいに」
「じゃあ、北国は幽霊だらけだな。なかなか消えないぞ」
「そうか、そういうしぶとい雪もあるのか」
「そうだよ、俺たちみたいに」
ふたりで協力して雪だるまを作りながら、くだらないことを喋っています。くだらないことしか喋りません。くだらないことしか興味がわかないのです。
「出来た」
ふたりの背丈より少し小さな、のろまそうな雪だるまが完成しました。
「顔がないね」
「顔、あるじゃねえか」
「そうじゃなくて、眼とか口とか」
「ああ、そっか。面倒くさいな。なんで顔なんてあるんだ? 白紙でいいんじゃねーの? 人間だって、みんなのっぺらぼうで生まれてくればいいのに」
「それだと、泣いたり笑ったりできないからね」
「しょうがねーなあ」
マサシはごそごそと、隣の死体の懐をまさぐりました。財布が出てきました。中を覗いてみると、紙幣やカードは一枚も入っておらず、小銭が数枚あるだけでした。
「ちょうどいいや。これでどうだ」
雪だるまの頭部に小銭を嵌めて、眼や鼻や口を
「よし。かわいくなったな。こいつをタカシと名づけよう」
「タカシ、すぐ死んじゃうだろうね」
「雪だるまの寿命なんて知るかよ。いまを生きたなら、それでいいだろ」
ふたりの幽霊はいかにも子どもらしく、自分たちが作ったもののことなんてすぐに忘れて、氷鬼をしながらその場を去ってしまいました。後には死体と、死体に添えられた雪だるまだけです。死体は固まっていますが、子どもの幽霊たちとは違い、氷鬼をしているわけではありません。
それとも、氷鬼をしている最中なのでしょうか? すべての死体は鬼に追いつかれ、固まって、それでもまたいつか、動き出せるようになるのを待っているのでしょうか? 解放してくれるだれかが、いつか触れてくれるのを?
だれにも見えない雪だるまの幽霊が、やがて溶け去る地蔵のように、人懐っこい表情のまま、路上の死体の傍らに佇んでいました。
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