横に眠るは

@rona_615

第1話

 もはや人類が活動し続ける余地は残っていない。それが私たちの総意だった。それでも自分だけは死にたくないなんて無粋な嗜好を持つ人間は既に淘汰された後で。

 残った五年は繁殖に費やした。そこに参加し得ない人たちは“希望”を活かすための試みに没頭していた。

 やっぱり、人間も、遺伝子の命令には逆らえないんだな、と思う。種の保存。よりよい子孫を残すための生存競争。

 もう子供が産めない私も、冷凍保存装置とそれを保護する仕組みを確立しようと躍起になっていた。

 文化や知識や宗教なんて二の次。一人でも多く、眠り続けて、起きて、生きて、次に繋げる。これを達成できなければ、かつて人類が滅ぼした種族と同じ道を辿るしかないのだから。

 そうして用意した、その“ゆりかご”は、たった九つだった。



 目が覚めたらと思ったのは、ずいぶん前。ただ『出てはいけない』と繰り返される言葉に従い、何度も眠り直した。少しずつカプセルが小さくなっていた、その理由が自身の成長にあったのだと、気付くのにも時間がかかった。

 ようやく蓋を開けたのは、頭と足の先っぽが、器にぶつかるようになったから。両手を上に伸ばしながら、姿を見せぬ声からの叱咤を恐れていた。

 上体を起こし、左右を見る。どこまでも広がる地面。私がいたのと同じような銀色の器が右に三つ、左に四つ、均等に並んでいた。

 私は右側の地面へと降り立つ。ざらりとした感触を足の裏に感じた。

 すぐ目の前にあるカプセルを無造作に開く。中に納められていたのは、私の弟のはずだけど、すっかり干からびて縮んでいる。その隣の妹は見た目こそ綺麗だったけど蘇生手続きには失敗。そのまた隣の弟にいたっては、カプセルがひしゃげて潰れていた。

 ……あぁ、ママ、やっぱりね。

 自分がいたカプセルを乗り越えて、残った四つを順に開けていく。手前の一つを除いて、中身は空っぽだった。

 自分の器に戻る途中、無事だった一つから中身を摘み上げる。封を切り、舌を添わす。

 ……甘い、甘い、バニラ味。

 アイスクリームなら冷凍している限り賞味期限はこないからと、ママが選んだ非常食。

 本当なら、他の子供たちが入るスペースだった。それをどうして奪えたかなんてしらない。

 ただ、ママはママの子供たちを生かすために一生懸命だったんだ。そして、それは少しだけ成功した。

 このアイスが尽きるまでは、私が、この地球での、たった一人の人類なのだから。

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