第35話 VSカリスト
カリストの拳がブラッディを襲いすさまじい轟音と共に、仮面が砕け散った。
「お義兄様!!」
「なっ、君はブラッディ!? ジャスティス仮面の正体が君とは……裏の裏をかいたっていうことか!!」
「うわぁ……この方……本当に正体に気づいていなかったんですね……」
リリスが悲鳴を、ヘクトルが驚愕の声をあげ、それにナツメがあきれた表情で肩をすくめる。そんななか、ブラッディは冷汗をかいていた。
体が……思うように動かない。
仮面が破壊されて正体がさらされたブラッディは、自分の体が一気に重くなるのを感じる。そう、元々彼は自分がジャスティス仮面であると思い込むということで、『自分もまたリリスを破滅フラグに追い込む人間である』というシナリオの強制力に打ち勝っていたのだ。
その暗示がとければ……彼はリリスを救うための行動ができなくなるのだ。
「とっさにかわすとはやるじゃねえか、でもこれはどうかな!!」
「ぐはぁ」
カリストの闇をまとった足が今度はブラッディの腹に突き刺さり、血反吐を吐きながら壁にぶつかってうめき声をあげる。
最初にシナリオの強制力が現れたときよりはマシだが、動かそうとする抵抗感によって体がにぶっている彼にはカリストの攻撃を避ける余裕なんてなかったのだ。
「お義兄様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「なっ、これは……まずいですね」
リリスの絶叫が響き渡り、彼女を助けようと身を潜ませていたナツメが慌てて方向転換して、ブラッディの元へ向かう。
「はっはっは、どうしたよ、こいつが助けてくれるんじゃないのか? お前のせいでこいつはここで死ぬんだ。よかったなぁ!! あのメイドと一緒だ。おまえはとんだ疫病神だよ」
「お義兄様が……ソラも私がいたから……」
「ちが……俺は……」
カリストの言葉にリリスは悲痛に顔を歪ませる。その瞳には涙が溜まっており今にもあふれ出しそうである。
そんな彼女に何とか慰めの言葉を伝えようとするが、ブラッディの口は思うように動かない。せいぜい蚊の鳴くような小さい声をあげるだけである。
「ほら、そいつを奥の部屋につれていけ。精神が弱った今ならヘラ様も降臨されるはずだ。俺様はこいつを殺してから行く!!」
「リリス……まってくれ……」
「マスター。失礼します!! 影縫い」
ヘラ教徒たちが縄に縛られたリリスを運んでいく中、ブラッディに襲い掛かろうとするカリストから、彼を背負ったナツメが魔法を使いながら牽制する。
「そんなへぼい魔法がきくかよ!! 闇よ、この世界を包み込め『ダークフィールド』」
「くっ、私の影が上書きされた!?」
カリストを中心に闇がうまれると、そのまま地面はもちろん、壁や天井が漆黒に染まっていく。
「はは、これで影はなくなった。ここにあるのは俺様の闇だけだぜぇ」
「気をつけるんだ!! カリストは戦闘のスペシャリストなんだよ。影魔法の対処法もお手の物だ!!」
「くっ、脳筋みたいなしゃべり方のくせに狡い真似を!! これでは自分の影の範囲しか魔法がつかえませんね……」
魔法を無効化されたナツメが毒づく間にもカリストが襲ってくる。身体能力もそこそこ高い彼女だがブラッディという荷物を持っている状態では逃げきれないだろう。
「ナツメ……俺を置いていけ……このままじゃお前も……」
「ふぅん……そういえば、あなたにとって、私やソラも大切な人なんですよね……」
「ああ、だからお前だけでも……」
ブラッディの言葉にしたがい彼を床に置くナツメ。その表情はブラッディからは良く見えなかった。そのまま逃げてくれるかとおもったが彼の予想を裏切り、彼女はマスクを投げ捨てると剣を構えてカリストと対峙する。
「はは、得意技を封じられたお前が俺様に勝てると思ってんのかよ!!」
「ブラッディ様……今だけはリリス様のためではなく、私やソラの仇をうつと思って戦っては頂けませんか?」
「いったい何を……言って……」
ブラッディの質問に答えずにナツメは猛ダッシュでカリストに斬りかかる。あたりを覆う闇によって暗い上に遠い為よく見えなかった。ナツメが何かを影からとりだしたようだが、鈍い音と共にそのまま殴られて先ほどのブラッディのように壁にたたきつけられていった。
「ナツメーーーー!!」
「なんてえぐいことを……」
「この女……まじか……」
ブラッディの悲鳴と困惑したヘクトルとカリストの声が聞こえてきたが、今のブラッディにはどうでもよかった。
彼にあるのはカリストへの怒りだけだ。そして、自分の体が自由に動くことに気づく。
「ああ、そうかよ……ナツメ……」
『ブラッディ様……今だけはリリス様のためではなく、私やソラの仇をうつと思って戦っては頂けませんか?』
先ほど言った言葉の意味がようやくわかった。ブラッディはシナリオの強制力のためにリリスのためには戦えない。
だけど、他の大切なためにならば戦えるのだ。例えば、彼を手助けしてくれたナツメの仇をとるならば……
それがわかっているからこそ彼女はその身をていして犠牲になってくれたのだ。
「はっ、今更立ち上がってどうしようってんだ。お前ごときが俺様に勝てると思ってるのかよ!!」
「お前こそ、楽に死ねると思うなよ」
「な……」
闇をまとったカリストの拳を同じく闇をまとったブラッディの拳が受け止める。魔法こそ同じだったが、そのまとう魔力は圧倒的なまでの差があった。
「なんだその力は……さっきと全然違うじゃねえかよ……」
「いいことを教えてやるよ。俺は光魔法よりも闇魔法が得意なんだ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
カリストの拳を握りつぶしてブラッディはそういった。その表情はかつてリリスがさらわれた時と同じように強い感情が秘められていた。
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