第34話 拠点潜入
「うおおおお、邪教を壊滅せよ!!」
「ヘラ様のためにぃぃぃぃ!!!」
所々で剣と剣がぶつかりあい、魔法の打ち合いらしき轟音の中、ブラッディはナツメと共に『幻影』を使ってヘラ教のアジトへ潜入していた。
「なんかもう、最終決戦みたいになってるな……」
当たり前のことながら時間軸はまだゲーム開始前である。本来ならば邪教はリリスを見つけこそすれ暗躍している段階で、こんな風な大規模な戦いはおきていなかった。
「戦力が整う前に戦えてよかった……そう思えばいいのではないでしょうか?」
「そうだな……ただ、こっちの相手は終盤のボスクラスだけどな」
「それでカリストとやらはどれくらい強いのでしょうか? ヘクトルさんはぼこぼこにされていましたが……」
ヘクトルは決して弱くない。ブラッディの見立てではナツメやジャスティス仮面状態のブラッディと互角くらいだろう。
「ああ、最強にて最悪の司教だよ。やつは俺と同じ闇魔法をつかうんだけど、基本的にはそれを身体能力をあげるのに使っているんだ。だから、魔法をまとう前に倒す必要があるな。おそらく今の……ジャスティス仮面として一対一で戦ったら勝てないだろうな」
「なるほど……かつてない強敵というわけですね。ですが、私とマスターが組めば敵ではないでしょう」
ブラッディの話を聞いたナツメの緊張感が増したようだが勝利を疑っていないようだ。そこにはブラッディへの圧倒的な信頼があった。そして、身をひそめながらどんどん進んでいく。
何人かのヘラ教徒とすれ違ったがばたばたしていることもあり、ブラッディの『幻影』にきづくものはいなかった。
「なあ。カリスト様はなんで戦場に現れないんだ? 側近の司祭さまもいないし……」
「なんでもヘラ様に生贄をささげる儀式をしているらしいぞ」
すれ違う二人組のヘラ教徒の言葉にブラッディとナツメは頷きあうと即座に行動に移す。
「なんだ。おまえ、不審者……」
「余計なことを話しても殺す。騒いでも殺す。わかったな」
「闇よ、我が領域をうみだせ『影界』」
『幻影』をといたブラッディが即座に信者の一人を気絶させて、もう一人ののど元にナイフを突きつける。
そして、ナツメが放った結界によって、ブラッディとヘラ教の二人は彼女の影にひきずりこまれた。
『マスター。これであなたがたは他人の視界にはいらなくなりましたよ。遠慮なく拷問ができますね』
「ジャスティス仮面は正義の味方だぞ……拷問なんて……こいつらの返答次第かな」
ナツメの影に入った影響か、彼女の声はくぐもって聞こえ、あたり一面が真っ暗闇の中、ふるえているヘラ教徒のみが視界に入る。
上級魔法『影界』相手を自分の影に引きずりこみ拘束する魔法だが、ナツメほどの使い手ならば自由に拘束する相手を選べるようだ。現にブラッディは自由だが、ヘラ教徒は身動きが取れないのか恐怖に満ちた目でこちらをみつめているだけだ。
「悪いな、俺も今はあんまり余裕がないんだ。銀髪のまるで女神かと見間違うような美しい女性をカリストがさらってきたはずだ。彼女はどこにいる」
「あ、ああ、それならばこの奥の部屋にいます。今ごろヘラ様を召喚するための生贄にする儀式を始めているはずですぅぅぅぅ」
「あれ?」
もっと抵抗するかと思いきやむちゃくちゃあっさりと吐くヘラ教徒にブラッディが逆にあやしくないかと悩んでいると、ナツメの声が聞こえる。
『とりあえず、奥の部屋へ向かってみましょう。もしも、罠だったら……楽しいことがおきますよ?』
「うおおおお?」
その一言ともにブラッディの体が影につつまれて外へと追い出された。目の前にあるのは先ほどまでいたヘラ教のアジトである。
「なんか変な感じだな」
「人の影に入ってエッチな気分になったんですか……? 特殊性癖ですねマスター。」
「その変じゃねえよ!? てか、影にはいっている敵ってどうなっているの」
気になったブラッディがナツメの影を見つめていると冷たい言葉が返って来る。
「人の下半身をじろじろ見ないでください。エッチですね。これはリリス様に報告しなければ!!」
「やめてーーー!! リリスたんに嫌われたらいきていけなくなる」
メイド服のスカートをおさえながら軽口をたたくナツメにつっこみをいれながら、奥の部屋へと向かいそのまま扉を蹴破って入った時だった。
ブラッディの視界に入ったのはまるで彼らが来るのを知っていたかのように嗜虐的な笑みを浮かべているカリストがこちらに闇をまとった拳をふるうところだった。
「ジャスティス仮面様ぁぁぁ!!」
「はっはーー。お前が来ることはしってるんだよぉぉぉ!!」
リリスとナツメの悲鳴にも似た声が聞こえ、カリストの闇をまとった拳がブラッディの仮面にあたりを砕け散る。
「いきなりの不意打ちとはやるじゃないか……あ?」
とっさに顔を引いて直撃を避けたブラッディだったが、いきなり体が重くなるのをかんじる。なぜだ……? と疑問に思っていたが砕け散った仮面と周囲の視線で気づいてしまう。
まずい……俺の正体がばれてしまった
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