第33話 アジトでまつもの
ここはプロミネンスの領地にある邪教のアジトである。古い神殿を利用しているのか警備がちらほら見える中、兵士たちによる包囲が終わったが、指揮官であるプロミネンスの表情は浮かない。
「なんで、僕が……」
「まあまあ、これが成功すればあなたは貴族をさらった邪教を倒した英雄ですよ。それともこれを公開されて逆賊になりたいですか?」
「ぐぬぬぬ……」
ぼやいているプロミネンスをナツメが何かの紙をみせると彼は悔しそうにうめき声をあげる。
「今回ので例の件はちゃらだ。いいな?」
「何を馬鹿なことを……そんなはずないじゃないですか、あなたは永遠に私たちの奴隷ですよ。ちなみに口封じは無意味です。私が一週間冒険者ギルドに顔を出さなければ王都に自動的にこの紙が届けられるようになってますから」
「このおんなぁぁぁぁぁ!! おい、ブラッディ。貴様のところのメイドはどんな教育をうけているんだ?」
絶叫してこちらを睨みつけてくるプロミネンスに、ブラッディは困惑気味にナツメに訊ねる。
「なあ、なんでこいつはこんなにイライラしているんだ?」
「さあ、変なものでも食べたんじゃないでしょうか?」
「そのメイドのせいだよ!! くそ!! 邪教を倒した手柄は僕が全部もらうからな!!」
プロミネンスはそう怒鳴り散らすと、どこかへといってしまった。おそらく兵士たちとこれからを打ち合わせるのだろう。
「それにしてもあいつがよく協力してくれたな……」
ゲームの主人公とは違いただの男爵にすぎないブラッディをプロミネンスは見下していたはずだ。だからこそ手助けを頼めば無理難題をふっかけられるものと思っていたのだが、予想外なことにあっさりと協力をしてくれたのだ。
「やはりリリスたんの魅力にあいつもやられていたのか……?」
「私の努力ですよ、マスター」
「わかっているって、冗談だよ。本当に助かったよ、ナツメ」
冷たい目で見つめてくるナツメに謝るブラッディ。そして、彼は地上の指揮をプロミネンスに任せていつもの衣装に着替え、潜入の準備をする。
そして、仮面を強要してくる彼に大きくため息をついたナツメもそれに続くのだった。
★
「うう……ここは一体?」
リリスが目を覚ますとそこは薄暗く、うっすらと土でてきた天井が見える。ひんやりとしているのはここが地下だからだろう。
そして、慌てて体を動かそうとするが縄でしばられておりろくに身動きをとることはできなかった。
「ソラ!! ソラは大丈夫ですか?」
気を失う前の最後の記憶だと、彼女はさらわれそうになったリリスをかばい負傷したのだ。声をあげるがかえってくるものはなかった。
そして、周囲を見回すもソラの姿はない。
無事でいてください、ソラ……
リリスが自分の無力さを悔いていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「おうおう、ようやくお目覚めか、生贄さんよ」
「あなたは……?」
リリスの目に入ったのは赤い髪の少女……カリストである。彼女は馬鹿にするようにリリスを見て笑った。
「あなたはソラを襲った方ですね。私のことはどうなっても構いません。ですが、ソラだけは助けてください!!」
「ああん、なんだお前。自分のことよりも他人の心配とは余裕じゃねえか」
「いっつぅ」
カリストに乱暴な手つきで髪を引っ張られて思わず悲鳴をあげるリリス。その声を聞いてカリストは一瞬にやりと笑った。
「それにしても生意気な顔だなぁ……俺様は貴族が大っ嫌いなんだよ。どうせ両親やメイドにも愛されてろくに苦労もしてこなかったんだろ? だから、こんな状況でも余裕があるんだな? そんなお前がヘラ様の魂を持っているなんて不公平でむかつくなぁ!!」
何かを思いだしたのか八つ当たり気味にどなりつけてくるカリストをきっとにらみつけるリリス。決して自分だって苦労をしてこなかったわけではない。そう、反論しかけたが……ブラッディの顔が思い浮かぶと不思議とカリストへの恐怖が薄れていく。
「……あなたがどんな人生を送っているのかはわかりません。ですが、助けようと手を差し伸べてくれる人は必ずいらっしゃいます。私にお義兄様やソラがいたように……」
「うるせえな!! 説教かよ、くそ貴族が!! 俺様にはそんなやついなかったよ!!」
カリストの拳がわなわなと震えて、今にもリリスの美しい顔をきずつけるかに思えたが、意外にも深呼吸をしてこらえる。
「けっ、生贄であることに感謝するんだな!! ヘラ様の体に傷を残すわけにはいかないからな。じゃなきゃてめえなんて八つ裂きにして犬のえさにしてやったのによ」
乱暴にリリスの髪を離すと、カリストは不快そうに唸り声をあげた。そんな中、再び足音がこちらへとやってくる。
「カリスト様大変です!! 敵が攻めてきました。すごい数の兵士たちがやってきており変な仮面をかぶったブラッディ男爵の姿も目撃されたそうです」
「お義兄様……来てくださったのですね」
「ちっ、私の時にはだれもこなかったのにお前には……」
嬉しそうな声をあげるリリスを憎らし気に見つめていたカリストだったが、何かを思いついたのかにやりと邪悪な笑みをうかべる。
「ああ、だったら俺様がおまえの目の前でお義兄さまをぼこぼこにしてやんよ。精神的に弱らせた方がヘラ様も降臨しやすくなるからなぁ」
「お義兄様はあなたになんか負けません!!」
「はっはっは、いいことを教えてやるよ。俺様は司教でいちばんつよいんだよ」
そう言って笑いながらカリストはブラッディたちを撃退する準備を始めるのだった。
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