第24話 待ち合わせ
「まずい……はやくつきすぎた……」
遅刻してはまずいと思って、早めに出たのだがまだ一時間ほど待ち合わせまである。そして、少し眠い。それも無理はないだろう、推しとのデートということで緊張してしまい、ろくに眠ることができなかったのである
しかも、今回はブラッディとしてのデートではなく、ジャスティス仮面としてのデートなので気兼ねなく楽しむことができるのだ。
「あー、ジャスティス仮面様だーー。握手して、握手」
「こら、ブラ……じゃなかった。ジャスティス仮面様はお忙しいのよ。お邪魔をしちゃだめでしょう」
まるで戦隊ヒーローにでもあったかのように目を輝かしている男の子をお母さんらしき女性が制止する。
「ああ、別に気にしなくていいぞ。今は暇だからな。ほら、手を出すといい」
「わーい、ありがとう!! あと、ジャスティス仮面様の必殺技みてみたい!!」
「はっはっは、仕方ないなぁ。リリカルスターアロー!!」
ブラッディの手を握って嬉しそうにぶんぶんと振り回す男の子。その少年に見えるように、小さい光の矢が天を目指して放たれる。
そんな二人を見て、母親が申し訳なさそうに口をひらく。
「ありがとうございます、うちの旦那がジャスティス仮面様のおはなしをよくするもので、この子はあなたにあこがれているんです」
「へぇ、旦那さんはどんな仕事をしているんだ?」
「ブラッディ家にて、騎士をさせていただいております、何度かリリス様の護衛をしたときにジャスティス仮面様に命を助けられたといっていました。その時の話を何度もするものでうちの子が自分も将来はジャスティス仮面様のようになるんだといつもうるさいんですよ」
「おかあさん、余計なことを言わないでよ!!」
ブラッディは恥ずかしそうに唇を尖らす子供の頭をなでて優しく微笑む。
「そうか、君はジャスティス仮面のようになって何をしたいんだ?」
「それは……」
男の子は一瞬隣にいる母を見て恥ずかしそうにしながらも力強い声で言った。
「僕もジャスティス仮面のように強くなってお母さんやお父さんを守れるようになりたいんだ!! ねえ、僕も強くなれるかな?」
「ああ、なれるとも。そのためには心の中に推しをつくるんだ」
「推し……?」
聞きなれない言葉に少年が聞き返すと、ブラッディは満面の笑みで答える。
「推しとはすなわち、その人の人生を見守り、応援したいというほど気に入っている人のことだよ。その人のためならば、どんなつらいことだってへっちゃだっていうくらい好きな相手だな」
「そっかー、じゃあ、僕の推しはお母さんだね」
「もう、この子ったら……」
ブラッディと親子の間に和やかな雰囲気が流れる、男の子が次の質問をするまでは……
「ちなみにジャスティス仮面の推しは誰なの?」
「ちょっと、駄目よ。その質問は……」
母親が男の子の口をふさぐがもう遅い、仮面越しだというのに、ブラッディが満面の笑みを浮かべているのがわかってしまった。
「俺の推しはもちろんリリスたんだ。彼女は孤独を秘めながらもうちなるヘラと戦い続けていた心の強い女の子でな、普段は無表情だが、時おりみせる寂しい顔がとっても印象で俺は守りたいと思ったんだよ」
「そして、俺が実際あうとな、すごい心優しくて可愛らしいんだよ。子供のころなんてちょっと俺が苦しそうな顔をしていると、『大丈夫ですか?』って聞いてきて、添い寝してくれたりとか、ドレスを買うたびにみせてくれたりするんだけど、その姿が本当に可憐なんだ、くるくるまわってはにかむ姿はまるで妖精のようだった」
「俺にとっては、完璧で究極の偶像(アイドル)であり、推しの子なんだ」
「う、うん、そうなんだ……」
もはや、前世の記憶どころか、正体を隠す気あるのかとつっこみたくなるような熱い語りに男の子すらもドンびいた様子を見せる。ブラッディのリリス好きは有名なので母親はよくわからないなと思いながらも聞き流していたが、一人だけ聞き流せない人物がいた。
その人物は顔を真っ赤にしながら、ジャスティス仮面の裾を引っ張る。
「なんだ? 俺はまだリリスたんへの萌えを語り足りな……」
「ジャスティス仮面様……その……ほめていただけるのはうれしいですが、恥ずかしいです……」
後ろを振り向くといつもとは違い、凝ったレースのワンピースを身にまとい軽く化粧をしたリリスが顔をリンゴのように真っ赤にして立っていた。待ち合わせまでにはまだまだ時間があるのだが、彼女もまた、早く着きすぎてジャスティス仮面をみつけてはいたものの緊張して声をかけられなかったのである。
「どこから聞いていたんだ?」
「その……子供と握手していたところからでしょうか? ジャスティス仮面様は優しいなぁって思ってて……声をかけるタイミングを失っていて……」
ほぼ最初からだった!! 思わず頭をかかえたくなるブラッディだったが、そんな彼にリリスは恥ずかしそうにほほを染めながらも自分の気持ちを伝える。
「私にとってもジャスティス仮面様は推しです。だって、いつも私が困ってくれる時に助けてくれますし、あなたがいるから私はこんな風に幸せに笑えるんですよ」
えへへとはにかむリリスに思わず抱きしめたくなる衝動に襲われるが、何とかブラッディはナツメの調合した精神鎮静剤を飲んでおさえる。ちなみに親子は二人の雰囲気に空気を読んでさっさとそばから離れている。
「そうか、ありがとう。そういってもらえると嬉しいな」
「はい、今日はその……デ、デートに付き合っていただいてありがとうございます」
「確か俺に見てもらいたいものがあるんだったな、行こうか?」
お互い気恥ずかしくなった二人は、ごまかすようにして足を進める。リリスは自分の服に触れてちょっと寂しそうにしていた時だった。ブラッディが少し緊張した声色で言った。
「今日の恰好とても似合ってるな」
「え……? はい、今日のために頑張って選んだんです!! ジャスティス仮面様の仮面も今日はとってもおしゃれですね!!」
幸せそうな声をあげてリリスはジャスティス仮面の横を歩くのだった。
★★
「おやおや、とても良い雰囲気ですねぇ。これは案外あっさりとうまくいくかもしれません」
「どうでしょうか? マスターはヘタレですからね」
ブラッディとリリスのデートを覗き見……見守る二つの影があった。ソラとナツメである。彼女たちはその身に影をまとって気配を消しているのである。
「それにしても魔法って便利ですね。これなら悪いこともし放題じゃないですか?」
「そうでもないですよ。こういうのには結構弱点があるんです。今はほかの魔法も使えませんし……」
「あ、ブラッディ様が何かほめたみたいでリリス様が顔を真っ赤にしてますよ。かわいいですねぇ……もっとくっつけばいいのに……ちょっといやらしい雰囲気にしてきましょうか?」
「やめなさいってば……」
無茶苦茶楽しそうなソラにあきれた声で返すナツメ。そんな彼女にソラはいじるの悪い笑みを浮かべる。
「それにしても、意外ですね。まさかナツメさんがこんなことに付き合ってくれるなんて……」
「それは……マスターがアホなことをしないか心配になっただけです」
「うふふ、そういうことにしておきましょうか? あ。動き始めましたよ。私たちもいきましょう」
そうして、二人もまたあとをつけるのだった。
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