第23話 デート準備
「うう、お義兄様はどんな服装が好みなのでしょうか?」
デートの前日の夜中にリリスはお気に入りのワンピースを何着も出してはあーでもない、こーでもないとあたふたとしていた。
そんな彼女にお付きのメイドであるソラが笑いながら答える。
「大丈夫ですって。ブラッディ様ならどんな服装でも可愛いって言ってくださいますよ。だって、口ではいろいろとツンツンしたことを言っていますが、はたから見ても溺愛してますもん」
「それはそうなんですけど……せっかくのお義兄様とのデートなんです。一番かわいいと思ってもらえる格好でいたいんですよ」
一応はジャスティス仮面とのデートなのだが、正体がバレバレなこともあり、ブラッディがいない場ではこのように、ジャスティス仮面=ブラッディという感じで話すのはこのナイトメア領に住む人間では当たり前のことなのだ。
「ねえ、ソラ……二人っきりの時ならばお義兄様がなんで正体を隠して私を守るのか教えてくれるでしょうか?」
「うーん、どうでしょうか? お二人のお母さまの目や世間体を気にしているのか、ブラッディ様はリリス様との距離をきにしてらっしゃるから突き放すというのはわかるんですが、あんな格好をする必要はないですからね……」
「うう……子供のころに甘えすぎたからでしょうか……でも、知らない人ばかりの所にやってきて緊張してたところをあんな優しくされたら好きになっちゃうに決まっているじゃないですかぁ……」
リリスが顔を真っ赤にして恥ずかしそうにベッドに顔をうずめて足をばたばたする。その姿からは冷酷無慈悲なラスボスとしての姿はかけらもなかった。
それも無理はないだろう。孤児院から強力な魔力を目当てに貴族に引き取られた彼女だったが、適当な教育を受けさせられて、政治の道具にされるのだろうと皆にいわれてやってきたのだ。
「『お前なんかナイトメア家の一員じゃない!!』とか言われると思っていたんですよ……なのに……」
だが、現実は違った。心優しき義兄は私の汚れた体を見てメイドに命じて風呂に入るように言ってくれたり、両親にこっそりと甘いお菓子をくれたのだ。
それだけじゃない。リリスが屋敷で過ごしやすいようにと様々な気を遣って溺愛してくれたのだ。そのおかげで最初は厳しい目で見ていた義母も優しくなり、使用人たちもリリスを軽んじることはなかった。
「まあ、お二人の関係を心配するっていうのもわかるんですよね……」
リリスとブラッディの仲の良さは当時の屋敷でも有名だった。最初は微笑ましく見ていたがそれも二人が成長していくにつれて不安がる声をが増えたのだ。
それも無理はないだろう。リリスは友達も作らずにブラッディにべったりだったし、彼もまたそんなリリスを甘やかしていた。それこそ口が悪いものは二人ができているんじゃないかとすら言う者もあらわれたのだ。
「まあ、でも、リリス様は全然ブラッディ様離れできてないですよね」
「わかってますよ、私がお義兄様に甘えすぎているっていうことは……でも、あんなのずるいです!! お義兄様が距離をとってきて、寂しいなって悩んでいる時でも、私が困ってたらさっそうと現れてくれるんですよ!! しかも、私が大好きだといった絵本の英雄の格好をして!!」
あれはブラッディが急によそよそしくなった時だった。何か失礼なことをしてしまい嫌われたのかと不安がったリリスは仲直りをしようと、クッキーを作るために材料を買いに行ったのである。
その時にかつての孤児院の院長にさらわれてしまい、どこかの貴族に売られるのを助けてくれたのがジャスティス仮面との最初の出会いだった。
「変装こそバレバレでしたが、あの時のお義兄様はとても素敵でした。しかも、助けたときに昔みたいに優しく頭をなでてくださったんですよ……えへへ、幸せでしたぁ」
とろけた顔で昔話をするリリス。何度も聞かされたそれにソラは微笑ましい顔を浮かべながらうんうんとうなづく。
「まあ、ブラッディ様は昔から私にポーションを買わせて死ぬほど魔法の特訓をしたりと奇行が目立ちましたが、人が嫌がることは一切しませんでしたからね。きっとあの変装にも意味があるのでしょう」
今は懐かしい、子供のころに魔法を使ってはぶっ倒れている彼をひそかに看病していた昔を思い出しながら、ソラは微笑む。彼はそれ以外にも様々な行動をしていた。それは例えば冒険者ギルドと協力し騎士たちからの指導を命じたり、急に馬鈴薯なるものを育成したりだ。
当時は意味がわからなかったが、彼のおかげで冒険者たちの生存率はあがり、志望者が増えたため治安がよくなった。馬鈴薯も飢饉のときにとても役に立ち領民たちをくるしませることはなかった。
ゆえにここの領民はジャスティス仮面の正体を気付いていることはいわないのだ。きっと彼には何か考えがあると思うから……
「わかっているとは思いますが、リリス様これはチャンスですよ。ジャスティス仮面の秘密を知っているとアピールできればリリス様とブラッディ様の関係も深まるかもしれません。秘密の共有はだいじですからね。ふふふ、兄と妹の禁断の愛!! 尊いです!!」
「愛だ何てそんな……」
ソラの言葉にリリスが可愛らしく顔を赤らめる。ジャスティス仮面の正体同様に、ジャスティス仮面をリリスが慕っているのもまたここでは公然の秘密だ。
「でも……私も頑張らなきゃいけないんです。お義兄さまはモテますから……ちゃんと私の気持ちを告げないで負けるなんて絶対嫌です」
「そうです。リリスさま。ジャスティス仮面様の正体を知っているとわかってもらったうえで愛の告白をするのです。ブラッディ様のことです。素の状態では気持ちをつげられそうになったら逃げるでしょうし、ジャスティス仮面としての状態ではあくまでジャスティス仮面を好きだと思うでしょう。だから、ちゃんと正体をわかっていると教えた上で告白するのですよ」
「はい、流石はソラですね!! 色々と相談してよかったです。それでは作戦を練りましょう」
ブラッディが友人たちから手紙をもらっていたのを見て、彼女の恋心にも火がついていた。
だから、彼の正体を何とか暴いて、自分の気持ちをつげるのだ。義兄を好きなだけではない、義兄が変装していたジャスティス仮面のこともまた好きだと、告げればきっと彼は本気で自分のことを考えてくれると思うから……
だが、リリスも知らないことがあった。
「ふふ、このソラに任せてください。私は優秀なメイドですから、それにこういう読み物は大好きですからね」
そう、ソラもずっとメイドをやっていたためまともな恋愛を知らないのである。物語の知識のみで考えられた彼女の作戦がどうなるかは……まだ、わからない。
そしていよいよ、デート当日であり、準備を終えたブラッディは鏡の前で自分の服装を確かめていた。
「どこかおかしいところはないか?」
今日のブラッディは貴族が着るような高価な刺繡のされたシャツに、手入れのしっかりとされた革靴であり、まさに勝負服といった感じである。ただ一点をのぞけば……
「服装は問題ないと思います。ただ、おかしいものと言えば、そのマスクとブラッディ様の頭でしょうか?」
「ジャスティス仮面としてデートするんだから仮面をとったらばれちゃうだろうが!! それにこれは戦闘用じゃない。オシャレマスクだ。真ん中にダイヤがあるんだぜ。かっこよくない?」
「変態度と不審者度がよりましてますね……」
そう、服装こそしっかりしているもののいつものマスクのせいで不審者感はぬぐえないのが現実である。一応だが、リリスを含めた屋敷の者にはブラッディの方は領地の視察にいっているということにしてある。無駄に念を入れているのだ。
「まあ、リリス様ならば気にしないと思いますよ……いつも影の守護者としてそこまで会話をせずに守っているんです。たまにはデートを楽しんできてください」
「ああそうだ。調子にのって、正体がばれないようにしないと……」
そう、ブラッディ自体が破滅フラグになっているのは未だ変わりない。正体がばれれば強制的にリリスを罵倒してしまうのだ。
改めて、仮面がずれないようにときをつけるのだった。
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