第19話 救出
闇の獣ケルベロスを従えしタルタロスと対峙するブラッディとナツメ。
「それにしてもまさか、こんなところで司祭クラスと出会うとはな……しかもタルタロスとは……」
「知っているのですか、マスター」
「ああ、ゲーム中盤に登場するボスキャラだよ。こいつの使う番犬ケルベロスは魔力を喰らうんだ。魔法使いを主軸にしていたからゲームでは無茶苦茶苦戦したな」
前世での記憶がよみがえったのか渋い顔をするブラッディ。だが、その中にナツメは余裕の色を見つけたので微笑みながら訪ねる。
「なるほど……それで、手助けは必要ですか?」
「いや、不要だ。俺だけで倒す!! だから、ナツメは援軍を警戒していてくれ」
そう言いながら聖剣を構えるブラッディに、ナツメが頷く。その間にもタルタロスの周りにはどんどん闇が凝縮されたケルベロスが生み出されていく。
「作戦会議はおわったか、不審者ども。俺様の可愛い可愛い相棒たちのえさにしてやるよ!!」
「このジャスティス仮面!! お前のような悪に負けるわけには……」
「ちょっと待ってください!! 不審者たちとは何ですか? まさか私も同類扱いされているのですか!?」
お互いが一触即発の状況だったが、ナツメが聞き捨てならないとばかりに口をはさむ。すると、タルタロスが馬鹿にするように笑った。
「何を言ってやがる。メイド服にそんな風におそろいのだっせぇマスクをつけてやがって。ご主人様とそういうプレイでもしてんのか? 不審者女がよぉ」
「……マスター、あとでお話があります。それと……こいつは殺しましょう」
「あの、ジャスティスレディさん、落ち着いてください。敵よりもこわいです」
感情のない瞳と声色にブラッディは思わず敬語になってしまった。正直無茶苦茶怖い。
「はは、不審者どもが!! 仲良く俺のペットのえさになるんだな!!」
「させません、影縫い!!」
タルタロスがけしかけようとしたケルベロスの影をジャスティスレディの投げた短剣が射貫くとしばらく縫い付けられたように地面から動けなくなる。
そして、その間に、ジャスティス仮面が聖剣を構えながら駆け出していく。
「ふざけた格好をしたやつらだが腕はそれなりに立つようだなぁ!!」
「……マスターのせいで私まで同類扱いされてしまったではないですか!! 謝罪と賠償を求めます!! 具体的にいうと任務が終わったらマッサージと美味しいスイーツを所望します」
「俺の方がご主人なんだけどなぁ……むしろ、お前がマッサージしろよ。メイドだろ」
「なるほど……リリス様にセクハラマッサージを要求されたと相談しないと!!」
「やめて、そっけない態度をとっているから嫌われるのはいいけど、引かれるのは嫌だぁ!! てか、お前ちょっと怒ってるだろ。この格好ヒーローっぽくてこのカッコよいと思うんだけどなぁ……」
「俺を無視して、何をくだらない話をしてやがる。闇の鎖よ、わが怨敵を捕らえよ!!」
ジャスティス仮面たちの会話にイライラしたタルタロスの手から漆黒の鎖が生み出されジャスティス仮面を捕らえようと迫って来ると、彼はその軌道を見抜いて、切り払う。
「全く短気なやつだな、そらよっと。正義の鉄槌を喰らえ、リリカルスターアロー!!」
そして、そのまま右手をタルタロスに向けると、大声で叫ぶと光の矢が放たれる。とっさにケルベロスが魔力を喰らおうとするが、そのまま破裂するように消しとんだ。
圧倒的なまでの魔力に吸収しきれなかったのである。そして、タルタロスが焦ったのはそれだけはなかった。
「今のは『光の矢(シャイニングアロー)』だろう? なんで、そんな名前で使えるんだ? お前……まさか……」
ブラッディの一撃を見たタルタロスは信じられないとばかりに冷や汗を垂らす。それも無理はないだろう。なぜならば……
「シャイニングアロー? 違うなぁ。今のは正義のリリカル王国からやってきたジャスティス仮面の必殺技リリカルスターアローだよ」
「ご名答です。マスターは幼き頃より、魔法を学んでいたためか歴史上数人しか使えないという無詠唱魔法を使えるのですよ」
ブラッディの言葉を無視して、ナツメがどこか誇らしげで、得意げな感情をこめて解説する。普段はからかっている彼女だが、誰よりもブラッディの努力と頑張りを尊敬しているのである。
まあ、決して口にはださないが……
「無詠唱なのに……俺のケルベロスの許容量を超える魔力だと……」
タルタロスが驚愕の声をあげるのも無理はないだろう。本来魔法というのは、特定の力のある言葉を言って具現化するものだ。そうしないと、魔法がイメージできないのである。
だが、ブラッディは幼い頃より魔法の特訓を繰り返したせいか、魔力を身近に感じられるためか、無詠唱で使うことができるのである。だが、それでもちゃんと詠唱するよりはその威力は落ちるのだ。その事実にタルタロスは冷や汗を流す。
「なんでわざわざよくわかんない名前を付けてるんだよ。さっきだって、無詠唱で放てば俺は避けることはできなかったはずだ」
「ふ、そんなものは決まっているだろう!! 正義の味方には必殺技はつきものなんだよ!!」
「なっ……」
「はぁ……全く仕方ないマスターです。中二病を治す薬は異世界にもないのでしょうか?」
タルタロスが驚愕の声をあげ、ナツメがあきれたとばかりにため息をつく。そんな彼女の周りにはケルベロスの存在はすでにない。すでに彼女によってすべて討伐されていた。
影魔法による魔力を喰らいつくされる前に討伐したのである。
「くそがぁぁ、俺をなめるなぁぁぁぁ!! 俺は司祭で……最強の獣ケルベロスつかいなんだよぉぉぉ!!」
「ならば俺がお前を犬の様に拘束してやろう!! ジャスティスチェーン!!」
冷静さを失ったタルタロスが剣を手におそいかかってくるが、敵ではなかった。本来は『光の鎖』と呼ばれる拘束魔法によって、タルタロスはなすすべもなく拘束される。
「それではいきましょう。リリス様が心配です。ですが、その前に……」
「うげぇ!!」
ナツメが無表情のまま身動きのできないタルタロスの股間を蹴り上げる。
「お前……えぐいな……」
「そりゃあ、私まで不審者扱いされたので……」
とどめばかりに容赦なく追撃しているナツメにツッコミをいれるとジト目で睨まれる。そんなにあの格好は変だろうか? とちょっと不安になるもいつも笑顔で褒めてくれるリリスを思い出し立ちなおる。
そう、世界中の誰もがかっこ悪いといってもリリスたんさえかっこいいと言ってくれれば問題はないのだ。
「よし、この扉の先みたいだ。いくぞーー」
リリスたちがいるであろう扉を乱暴にあけると、そこにはリリスを含めた三人の貴族令嬢が仲良く抱き合うようにしていた。
近くではヘラ教徒らしき男が一人倒れている。
「我が名はジャスティス仮面……君たちを助けに……」
「「ジャスティス仮面様ーーこわかったですぅぅぅ」」
扉が開くのを見て、一瞬固まった少女たちだったが、ジャスティス仮面の姿を見ると涙をうかべてだきついてきた。
「え? 何、どうしたの?」
リリスの友人である少女たちはなにも答えずに彼の胸元とで泣いており、ナツメに助けを求めようと視線を送るが……
「正義の味方ともあろうものが、女性に抱き着かれてずいぶんとだらしない顔をされていますね」
彼女の視線はとても冷たい。なんで機嫌悪くなっているの? てか仮面があるから顔とかわからなくない? とか思ったが聞ける雰囲気ではない。最後の望みと思ってリリスに声をかけようとするが……
「流石ジャスティス仮面様、おモテになりますね」
笑っているリリスのその瞳からなぜかハイライトが消えていた。
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