第6話 リリスとお買い物
それからはリリスの様子と人間関係はすっかり変わっていった。
「お義母様、お義兄様。魔法の特訓はおわりましたかー? お二人のためにクッキーを焼いてきたのですがいかがですか?」
「おおーーーリリスたん!!」
「はい、お義兄様の大好きなリリスたんです♪」
ブラッディの顔をみつけて、満面の笑みを浮かべてやってきたのは最初にあった時よりも少し成長したリリスである。
ちゃんとした食事をとったり入浴などもかかさずしてきたため健康的になってきているのだ。
「こら、リリスちゃん。ブラッディちゃんは魔法のお勉強をしていたのよ。少しは休ませてあげないと……」
「まあいいではないですか、母上。ちょうど今勉強が終わったよ」
注意する母だったが、その目にも咎める色はなくどちらかというと「しかたがないわねぇ」といった感じの微笑ましいものを見る目である。
「わーい、じゃあ、お義兄様、一緒にクッキーを食べましょう!!」
常に無表情で冷酷な目をしていた推しが無邪気な笑顔を浮かべて抱き着いてくるのにブラッディは笑みを隠せない。
守りたいこの笑顔!! である。
そして、そんな二人を見た母は……
「リリスちゃんは本当にお兄ちゃんが大好きなんだから」
「お義兄様のことも好きですが、お義母さまのことも大好きですよ」
「もう……可愛いこといってくれるわね。せっかくだし特別なお茶をいれてもらいましょうか。ソラ、お願い」
リリスの言葉に母もまんざらでもなさそうに笑みを浮かべる。そう、ゲームではリリスをおとぎ話の継母のごとくいじめていた彼女もいまではブラッディと同様にリリスを可愛がっている
ブラッディがリリスと仲良くしていることと、周りの愛を信じることができるようになったリリスの優しさに気づくことができたのが大きく影響しているのだろう。
「お義兄様……お昼の後は本当にお買い物に付き合ってくださるのですか?」
「ああ、リリスたんもそろそろパーティーの誘いとかもあるからな。一緒にドレスやアクセサリーを選ぼう。それとこっそり甘いものでも食べよう」
「はい、楽しみです!!」
耳元でささやくとリリスは満面の笑みでうなづき、それを見たブラッディは悶えそうになる。守りたいこの笑顔!!
そして、それを見て母が悔しそうな顔をする。
「私も用事がなければ行きたかったのに……ソラ、二人を頼むわね。くれぐれも危険のないように」
「はい、奥様お任せください。私は優秀なメイドですから」
母の言葉にソラがドンと胸を張る。ちょっと不安だなとおもうブラッディだった。
馬車にのって街にむかうと人通りが激しいところにつく。ブラッディも屋敷の外に出るのはあまりないため正直興奮しているのはここだけの話である。
「これが市場か……」
「すごい人ですね……お義兄様……」
「うふふ、お二人とも私はぐれないようにしてくださいね」
楽しそうに外を眺めている二人にソラがクスリと笑う。そして、馬車から降りて市場に向かおうとすると、服の袖が引っ張られているのに気づく。
リリスである。人が多い所に慣れていないのかきょろきょろと不安そうにあたりを見回してた。
「リリス、お義兄ちゃんの手を離すなよ」
「お義兄様……ありがとうございます!!」
そんな彼女の手をブラッディがぎゅーっとにぎると、リリスは嬉しそうにほほ笑んで、ブラッディの手をぎゅーーと握り返してくれる。
そして、ソラの案内の元、市場を歩くのだが……
「ブラッディ様、リリス様!! 見てください。あのケーキ美味しそうですよ!!」
「うおおお、このネックレスは美しいな!! リリスたんちょっとつけてみてくれないか? ついでにソラにもやるぞ。この前リリスたんを守ってくれた褒美だぁ!!」
となぜかリリスを差し置いてブラッディとソラが盛り上がっていた。それも無理はないだろう。ブラッディはリリスが心を開いてくれたことが嬉しいし、ソラは二人が楽しそうにしてくれているのが嬉しいのだ。
「ねえ、ママー。この飴を買ってよ。とっても美味しいのよ」
「もう……ドロシーちゃんはしかたがないわね。この前も買ってあげたのに……今回だけよ」
そんな三人の視界にリリスと同い年くらいの少女が母親らしき女性の甘えているのが目に入った。それをリリスはどこかうらやましそうに見つめていて……
そういえば……リリスから何か欲しいって言われたことはないな。もっとわがままとかいってもいい年ごろなのに……
ブラッディはそんな事実にきづく。頼まれたのは絵本を読んでとか、手をつないでとかそれくらいである。自分が転生者だから忘れていたが、この年頃はまだまだ家族にわがままをって困らせたり、甘えたい年頃のはずなのだ。
リリスにもっと甘えてほしいなと思っているとこちらを見つめ優しく微笑んでいるソラと目が合って、以心伝心とばかりにうなづきあった。
「なあ、リリス……何か欲しいものはないか?」
「え……ですが、わざわざ買い物に付き合っていただいているのにプレゼントまでもらっては申し訳ないですよ」
「遠慮しなくていいんですよ。リリス様!! ブラッディ様はむしろリリス様に頼ってほしいんです。ついでに私の昇給もおねだりしてくださると助かります!!」
ソラの軽口にクスリと笑うリリス。そして、一瞬先ほどの親子を見た後に、ブラッディとソラを見つめてから少し緊張しながら口を開く。
「お義兄様……でしたら安いものでよいので調理器具が欲しいです。それで、お義兄さまやソラに感謝をこめて色々つくりたいなと思っているのですが……食べてくださいますか?」
リリスはちょっと恥ずかしそう顔をうつ向かせていった。それは彼女の優しさと二人にお礼をしたいという暖かい気持ちのこもったささやかなおねだりだった。
そんな彼女の提案に二人の返事は決まっていた。
「おお、もちろんだ。ソラ。この金で一番いいものを頼む」
「もう、ブラッディ様は成金ですね。こういうのはお金じゃないです。使いやすさですよ!! リリス様にぴったりなものをさがしましょーー!!」
リリスの提案に本当に嬉しそうにするふたり。彼ら騒がしくなるのも無理はないだろう。これまではどこか一歩遠慮していたリリスがおねだりをしてくれたのだ。それがうれしくてついつい笑顔になってしまう。
それを見て……リリスはというとなぜか泣いていた。
「リリスたん!? ごめんごめん、騒ぎすぎたな!! ソラなんか甘いものを急いで買ってきてくれ」
「わかりました!! リリス様、何が良いですか?」
「違うんです。待ってください……」
慌てて店へと走りだそうとしたソラをリリスが開いている手でつかむ。そして、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめていった。
「その……悲しんじゃないんです。うれしいんです。こんな風にまた、家族と一緒にお買い物できるのが……」
「リリスたん……お義兄ちゃんとまた買い物に行こうな」
ブラッディと同様に感動していたソラだったが、先ほどの家族を思い出して慌ててリリスに問う。
「リリス様……私のことをそんな風に思ってくださるなんてとてもうれしいです。ちなみにですが私はお姉さんポジですよね? お母さんポジではないですよね?」
「ソラ、ちょっと今感動的しているから黙って!!」
「いえいえ、私的には大事なんですよ。乙女心がかかってるんですよ!? 私はまだ十代で、未婚なんですぅぅぅ!!」
そんな風に騒がしくしながらも三人ともが笑う。そう、リリスは本当に幸せそうに笑うのだった。この日、リリスとブラッディたちは本当の意味で家族になったのだった。
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