第5話 ラグナロクの結末〜選択は正しかったのか〜

プオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!



ヘイルダムさん(アース神族の門番)が吹いた『ギャランホルン(巨人が攻めて来た時に使う角笛)』の音が響き渡る。俺ははっとした。『ラグナロク(世界の終焉)』の始まりだ。


なんせ、転生してからの俺の神生は、全てこの日のためにある。


姉ちゃんの誘惑や神々のきまぐれに邪魔をされ、何度も挫けそうになった。しかし、俺は世界の終焉に対抗するための準備を決して諦めなかったんだ!




準備は万全だったはずだ。




なのに、今この場に剣もゲルズもない。最悪だ。




まず『勝利の剣』は仕方なかった。


スキールニルがゲルズへの飛び込み営業を終えて戻った後、残念ながら故障してしまっていた。試しに俺も使ってみたが、本当に故障してしまっているようだ。間違いない。


奴の廃棄稟議書によると原因は経年劣化によるものだと考えられる。減価償却の耐用年数も当の昔に過ぎてしまっていることから、あとは廃棄処分しかないようだった。


まぁ、俺も社長に就いた辺りから、剣の調子が徐々に悪くなっていることを薄々感じていた。俺はその稟議書に一通り目を通し豪快に承認印を押してやった。


廃棄は一般廃棄物として処理できないため、特別産業廃棄物となる。それにはムスペルヘイム(灼熱の世界)の獄炎で処理する必要があったため、奴にマニュフェストの作成と運搬を指示した。


「わい、さっきヨトゥンへイム(巨人のホーム)から帰ってきたばっかなんやけど、なんやこのブラック!」


と言葉を残し。涙を出して喜んでいるように見えた。弊社で働ける幸せを感じていたに違いない。




問題はゲルズの方だ。


彼女は初スタメンを控え、対巨人戦の切り札として華々しいデビューを飾り、世界中に名前を轟かせるはずだった。


だが、今季は登板できないと言う。「イクジ・キューギョー」とか、「ケアハラ」とか弊社には存在しない単語を並べる。そういえば、「コンプライアンス・イハン」という単語も言っていたな。スキールニルからもよく聞く単語だ。


その時は気にしていなかったが、もっと部下の言葉に耳を傾けるべきだっんじゃないかと思うと悔やんでも悔やみきれない。




ラグナロクのきっかけは、どうやらロキ姉えの企画が大炎上したことだった。


ロキ姉えは、あの後もバルドルさんへの悪戯を諦めていなかったらしい。純真なホズさん(バルドルの弟)や無邪気な『ミスティルテイン(ヤドリギ)』の新芽をたぶらかし、勢い余って殺ってしまった。バルドルさんは全属性攻撃無効のチートスキルを有していたはずだが、やはり無邪気さは、時に残忍だ。


俺があの時、オカマの企画に付き合ってやれば、今日の日は無かったんじゃないかと思うと悔やんでも悔やみきれない。




そして、大事件はラグナロクが始まった直後に起きた。神々最強の魔力を有するオーディン爺さんが今回と全く関係ないところで噛み殺されてしまった。


聞くところによると、何故かフェンリル(最凶の狼、ロキ姉えの子)が『スレイプニルの拘束』を抜け出し、襲って来たらしい。まぁ、ドMのことだ。きっと好みの樹でも見つけたのだろう。


俺があの時、ドMから『スレイプニル』を取り上げなければ、神槍『グングニル』の力により、この場を丸く収められたんじゃないかと思うと悔やんでも悔やみきれない。




そして今、俺の目の前には炎の巨人スルト(ムスペルヘイムの炎の巨人)が立っている。


奴の手には見覚えのある輝きがある。あれは『勝利の剣』のようだ。きっと廃棄物処分施設から拾ったに違いない。


俺は自然と口元が緩んだ。


やった! ここに来て俺に運が回ってきた。なぜなら、その剣は壊れている。除却処分済み。要するに資産価値ゼロのただの棒きれだ! そして、もし仮に、修理が成功していても正しい者にしか使えない。終焉をもたらす巨人が正しい訳がないのだ。


勝った! 今のやつなら、そこら辺の鹿の角でもいけるだろう!


ドリヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!







ギャランホルンの笛の声、諸行無常の響きあり

ミスティルテインの花の色、純粋無垢の無慈悲さをあらはす

傲慢な俺も久しからず、ただ軽率なDQNの末路のごとし

崇高な俺も遂にはほろびぬ、ひとえに弊社の前の街路樹に同じ







俺は神だ。

ここまでの経緯を読者にもわかるように伝えよう。

なぜならば、俺は神だからだ。


俺は2度目の転生を果たした。今回は額に第三の目を宿す破壊神のようだ。


俺は今旅に出ている。これには訳がある。聞いてくれ。


先日、愛する妻の湯浴みを覗く変態がいたから首を落とした。やりすぎと言われるかもしれないが、不埒な輩には容赦しない。破壊神としてのキャラ立ちもあるからだ。


それがだ。よくよく聞いてみると覗き魔はどうやら俺と妻の息子らしい。行為をした記憶が全くないのにだ。


俺はもちろん浮気を疑い認知を拒んだ。だが、よく聞いてみると、さっきノリで自分の体の垢から作ったらしい。それでも認知するのが常識のようだ。神とはそういうものなのだろう。


もう妻はカンカンで替わりになる頭を見つけるまで帰ってくるなと追い出された。もちろん、今日の晩御飯は抜きだ。な。理不尽だろう?


俺はもう神に疲れた。そこにある象の首でもいいか・・・





【あとがき】

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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北欧のメジャー神に転生した俺。性に奔放な姉や、気まぐれな神々に振り回されつつ世界の終焉フラグ回避に奮闘する 雨井 トリカブト @AigameHem

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