第4話

「気泡爆!」


 どこからか、声が聞こえたと思ったら、泡がレコナイーズめがけて飛んできた。

 だけど、レコナイーズは一瞬でよけては、その泡は岩に当たって消滅した。


「よくも・・・、よくも・・・、バンディッツ様を・・・」


 ステイメンツが現れ、レコナイーズとシーウを睨みつけている。


「何の話なのか、よくわからないのですわ。

あたしが、やったという根拠はあるのですか?」


「この山に来ている見知らぬ者は、熊か君しかいない!」


「では、熊の仕業なのでは?」


「熊が洞窟を崩せるわけがない!」


「さすがは、山賊なのですね。

あまりにも、世間がどのように発展しているから、わかってないですわね」


 明らかに、レコナイーズのやったことでは?

 頑健の魔法で、自分を強化して、洞窟を壊したんじゃないの?


「魔法だけではなく、技術も発展しているのですわ。

それに、熊の生態をご存知なくて?」


「熊の生態?」


「今は、魔法が使える熊もいるのです。

古い伝統にこだわっていると、最新の情報に気付けないのですわよ」


 明らかに、山賊を蔑んでいる様子だった。

 仕方ない、彼女は10人までが与えられる番号まではもらえなくても、山賊退治の中では優秀な成績だったのだから。

 成績順で考えると、11番。

 それなりのプライドがあるのだろう。


「馬鹿にするなあああ!」


 そう叫んでから、ステイメンツは「気泡爆!」と唱え、レコナイーズに当てようとするも、彼女は全部避けてしまった。


 何発も撃っているうちに、それが俺に当たってしまい、俺は倒れた・・・。


 え?

 俺に・・・?


「サラン!」


 ステイメンツの、不安そうな叫び声が聞こえた。


 俺は、意識が朦朧としてきた。

 俺、死んだのかな?


 ここで、ヒポポパーラメンスの声が聞こえた。


「サランよ、またやり直す時が来た」



 俺は、ここで目が冷めた。

 現実ぽっくて、長い夢だったけど、まさか俺が死んでるわけない。


 俺は、サラン・ディスティーノ。

 異世界にやってきたしまったごく普通の一般人。

 この名前も本名ではないけれど、この世界の住人たちに違和感を与えないように名乗っている。

 サランは韓国語で「愛」という意味で、ディスティーノはイタリア語で「運命」という意味となる。

 どうして、このような偽名を?と思う方は、簡単な話だ。

 俺が3つの魔法のうちのひとつである、盗賊を魅了させる魔法を持つからだ。

 

 鉄黒の髪に、黒い瞳。

 黒い眼鏡をかけている。

 そして、色黒。

 背は高くもなければ、低くもない。


 深海恐怖症かつ、高所恐怖症だ。

 苦手なものは、海賊や空賊とか山賊とか、盗賊関係だ。


 俺はベッドから起き上がり、部屋を出た。


 俺は監禁されている。

 異世界に来て、すぐに囚われた。

 何が、なんだかよくわからない。


 それぞれの個体には、3つの魔法を与えられるみたいだが、俺が与えられたものは、「盗賊に好かれる魅了の魔法」「水泡の魔法」「逸脱の魔法」というものだった。


 水泡の魔法は、水ぶくれを作るというものだけど、これはイタズラとかを企まない限り、使わない。


 逸脱の魔法は、相手の目的をずらすことができるサポート魔法だ。

 相手の標的を変えたり、盗むものから目線をそらさせるなどができる。


 ちなみに、俺の魔法は戦う上では、役に立たない。

 防御も、回復すらも使えないし、味方がいてもサポートにならない。

 これは、盗賊のみに使える魔法で、それ以外には効果が全くと言っていいほどない。


 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋が話し合い、それぞれに3つの魔法属性を与えることになっていた。


 俺が異世界に来る前は、漆器しっき覇業はぎょうという、どこにでもいる中学生だった。

 だけど、どういうわけだが、ここに来た。

 きっと、研究員の誰かが、俺を誘拐したのだろう。


 研究員は、探しているみたいだった。

 盗賊たちに、対抗する方法を。


 だけど、その対象が異世界転移した者や、元々この世界にいた子供だったりする。

 子供でも誰でもいいわけではなく、孤児や家庭環境に恵まれなかった子供たちのことをさす。

 その場合なら、赤ちゃんも対象となる。


 俺は、盗賊とやらに対抗できるのだろうか?

 そして、この魅了の魔法が何の役に立つという?


 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋、宇宙賊退治専門屋のどちらに、俺は配属されるだろうか?

 どちらにしても、俺は攻撃魔法を一切使えないし、何の専門性もないだろう。


 空賊退治専門屋の所長が、ディベロック・インクリースさん。

 山賊退治専門屋の所長が、プロヴァイト・ベネフィッツさん。

 空賊退治専門屋の所長が、インプルーブ・コンテインさん。

 どちらが、俺に採用してくれるのだろう?

 どうしてそう思うか聞かれても、答えられないけどみんな、評価基準は厳しそうなイメージがある。

 


「サラン・ディスティーノ」


 白衣を着た研究員のひとりであるトゥリッツ・チャレリーさんに呼ばれた。


「はい」


「今から試験を行うが、その内容は理解していか?」


「はい。

山賊退治専門屋か、空賊退治専門屋か、山賊退治専門屋のどちらがふさわしいかですよね?」


「その通りだ。

だが、我々も与えられる魔法は3つだけだから、魅惑と水泡と逸脱というあまり使えないという結果になってしまった。

空を飛べるなら空賊退治とか、泳げるなら海賊退治とか、足が速いなら山賊退治とか分類しやすくなるんだが、こればっかりは適応能力や体の相性もあるからな」


「そもそも、どうしてこんな魔法なんか与えたんですか?」


 戦闘能力さえ高ければ、ラノベみたいな異世界転移の展開が待っていたのに、魅了の魔法で何ができるか想像つかない。


「それも、ひとつの実験なんだ。

ただ戦うだけ、ただ回復するだけだと盗賊も警戒を高め、強くなるだろうし、サポートができるなら、相手を油断させるしかないと思ってな。

恋は盲目ということわざがあるように、自分が好きになった相手は信じやすいということも、証明されている。

それに水泡の魔法は使う機会はなくても、逸脱はターゲットを外すことに役に立つ」


「それは、騙すということですか?」


「その通りだ」


 俺は、とんでもない実験につきあわされているようだ。


「俺は人を騙せるほど、話術もありません。

今すぐというわけではないですが、いずれバレそうじゃないですか?」


「話術なんて、プロ詐欺師なみのことは求めてない。

盗賊側に、適当でいいから好きになってもらうだけでいい。

守ってやらなきゃ、と勘違いでもいい。

油断こそが、目的だからな」

 



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