第3話

 俺は、ヒポポパーラメンスのところへ行こうと手探りで向かったけれど、腕をつかまれてしまった。


「どこへ行こうとしてる?」


「え?」


「ひとりで、何と話してる?」


 暗闇の中でも、俺がどこにいるとかわかる?

 だけど、だとしたら、ヒポポパーラメンスの侵入も気づくはずだ。

 まさか、ヒポポパーラメンスの存在が見えてない?


〈ヒポポパーラメンス、どうゆうことだ?〉


〈どうゆうことって?〉


〈バンディッツは、ヒポポパーラメンスの存在に気づいてないし、声も聞こえないみたいだ〉


〈妾は、山賊や空賊、海賊には認知できない。

ただ、それだけのことだ〉


〈それだけって・・・?〉


 ヒポポパーラメンスは、何者なんだ?

 ただの小さな空飛ぶカバみたく思っていたけど、考えれば考える程、謎が多い。


「ようわからんけど、どこにも行くなでヤンス」


 俺は、バンディッツに強く腕を握られた。


〈ヒポポパーラメンス〉


 俺は、助けを求めた。


〈そばで見守ってやるから、大丈夫だ〉


 うまく説明できないけど、見捨てられそうな気がするし、助けられるのか?

 ヒポポパーラメンスの魔法は、瞬間移動とテレパシーしか知らない。

 俺を救済してくれる力さえあれば・・・。



「バンディッツ様」


 2人の山賊らしき人が声を揃えた。

 多分、姿は見えないけど、洞窟の外で会ったあの二人組だ。


「ご苦労でヤンス、ステイメンツ、プロフェッサー」


 ステイメンツ?

 プロフェッサー?

 そんな名前だったのか?と首をかしげていた。


「紹介しようでヤンス」


 こうして、バンディッツがランプをつけてくれた。

 あるんだったら、最初からつけてくんない?


「こちらが、ステイメンツ・チューズ。

涼風の魔法と、陥没の魔法と、気泡の魔法が使えて、川で魚を取る時に役に立つでヤンス。

得意技は、気泡爆きほうばくでヤンス」


「気泡爆・・・?」


 見ると、あのガリ細の俺が「ラベンダーの香りがする」と言ったやつだ。

 ほとんど白に近いけれど、グレーが入っているような白鼠色の髪に、黄緑だけど、それが薄いために若菜色の瞳と思われる。


「こっちが、プロフェッサー・アウォード。

嫌疑の魔法と、窮屈の魔法と、沸騰の魔法が使えるでヤンス」


 ガリ細でもなければ、バンディッツのように太ってない。

 奴は俺から「薔薇の香りがする」と言っていた。


「最後に、オレは逐語訳の魔法と、閑職の魔法と、贈賄の魔法が使えるでヤンス」


 魔法の説明をされても、俺はこの世界に来たばかりで、何もわからない。

 だから、詳しく聞きたいけど、常識的なことも知らないのかと思われたくないから、質問できない。


「君は、名前は何という?

そして、どんな魔法が使える?」


「名前・・・?

魔法・・・?」


「もしかして、捨て子でヤンスか?

そのために、出自や名前がわからないとか?」


「俺は、サラン・ディスティーノ。

魔法は、わからない」


 俺は名前は言い、魔法は言わなかった。

 魅了なんて、俺のプライドが認めない。


「親も知らない感じか?」


「親は、多分知らない・・・」


「多分?」


 バンディッツが眉をひそめた。


「知らない!」


「そんな大きい声、出さなくても聞こえてるでヤンス。

そして、気になったんだが、君からアイビーの匂いがするでヤンス。

これは、香水?」


「アイビー・・・?」


 アイビーの花言葉って、何だっけ?


「そんなことよりもさ、発泡酒飲もうでヤンス」


 山賊たちで、発泡酒を飲もうとしたその時、洞窟が崩れた。


「危ない!」


 バンディッツは俺を庇い、俺の上に乗った。



 俺は、なぜか助かった。

 意識もあるし、どこも痛くない。


 何が起こったのかわからなかった。

 何故、突然に洞窟が崩れたんだ?

 地震でも起きたのか?

 だとしたら、大きな揺れがあるはずだけど、そんな様子もなかった。


「ヒポポパーラメンス!」


 俺は、相棒の名前を叫んだ。

 上に乗っているバンディッツは、目を閉じたまま意識もしてなかった。


 俺は、ヒポポパーラメンスに助けを求めることしかできない。

 彼が、下敷きになって意識がないなら、俺はどうしたらいいんだろう?


 俺はバンディッツをよけた。

 体重は普通の成人男性よりあるかもしれないけど、研究所で鍛えた俺の力なら、動かすことぐらいはできると思うけど、抱きかかえたり、引きずって連れて行くことはできなさそう。


 俺は、起き上がった。

 あたりは、崩れた岩?ばかりだ。


 歩きにくいけど、助けを探すしかない。

 だけど、こんな山の中で人がいるなんて思えない。


「久しぶりなのですわね、サラン様」


 声がした方を見上げると、目の前には袴を着ており、ニーハイブーツを履き、翡翠色の瞳と、浅緑の髪をツインテールにした背は高くもなければ低くもない女の子だ。

 少女の近くには、アザラシのぬいぐるみらしきものが飛んでいた。

 だけど、俺は同じ研究所の仲間であるために、知っている。


 彼女の名前は、レコナイーズ・プルーフ。

 頑健と逸品と散逸の魔法を使える。


 そして、アザラシの姿をした相棒のシーウ・イクサイメンツ。

 寡占と寡聞と寡少の魔法を持つ。


「どうして、ここにいる?」


「どうしてなのですか?

簡単な話なのですわ。

任務なのですわよ」


「任務・・・?」


「あたしは、山賊退治を与えられたのです。

たしか、君は訓練生なのでした?」


「洞窟が崩れたんだ。

山賊も下敷きになったし、ヒポポパーラメンスもいない!」


「これでいいのです」


「何を言って・・・?」


 レコナイーズは、冷めた表情をしながら話した。


「これでいいのですわ。

山賊の撲滅が目的なのですし、ヒポポパーラメンスは死なないのですわよ」


 山賊のバンディッツは俺を守ってくれて、悪い奴ではなかった。

 それに、ヒポポパーラメンスまで巻き添えをくらっていることも、考えられる。


「死なないって、どうしてそんなことがわかるんだ?」


「ヒポポパーラメンス様は、サラン様の相棒なら・・・」


 そんな話をしているうちに、ヒポポパーラメンスがどこからかやってきた。


「ヒポポパーラメンス!」


 俺は、生きていたんだという嬉しさのあまり叫んでしまった。


「何だ、妾の陰口か?」


「せっかくの感動、台無しにしないでくれない?」

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