蓑虫怪奇異聞集

一本道で出会ったもの

斉藤さんが住む田舎で出会った怪異だ。

町の集会所に用事があり田舎の一本道を歩いていると、進行方向にぼんやりと白い何かが見えた。周りに遮る物がない田舎道、そのせいか、かなり遠くに見えるそれが人影だとすぐにわかった。

そのまま道を進んで行くと白い影も少しずつこちらに向かってくる。近付くにつれ黒い長髪と風になびくスカートが見え、そのフォルムからどうやら女性だとわかった。

少しずつ近付いてくるにつれて、斉藤さんは女のその動きに違和感を覚えた。歩く動きと近付く速さが不自然なのだ。歩幅よりも大きく近付いてくる、まるで地面を滑っているかのように。

違和感を覚えだすとその女への不気味さが増していく。

息つく間もなく女は顔が判別できるほどの距離まで来ていた。若い女性、この田舎では見た事のない顔だった。その女は笑みを浮かべながらこっちをジッと見つめ近付いてくる。

斉藤さんはゾッとして思わず立ち止まった。来た道を引き返そうとするが何故か体が動かない。女はすぐ目の前まで来ていた。

もうダメだ！

そう思った所で突然、地面に大きな影ができた。何もない田舎道のド真ん中だ、影になるような物など見当たらない。何が起きているんだと見上げる。

女の真上に大きな何かがあった。5〜10mくらいの高さだろうか、女の体より一回り以上の大きさの白い何かが浮いている。その物体の影だった。

手のひら…？

斉藤さんにはそれが大きな手のひらに見えた。何で手のひらが浮いているんだ？そう思った瞬間、その大きな手のひらが突然すごい速さで落下を始めた。すると女は自分が手のひらの影に入った事に気付き、首を上に向けた。

グチャ

女が見上げたと同時にその大きな手のひらは女をつぶした。

数秒ほどして、その手のひらがゆっくりと地面から離れる。そこにはペシャンコで血塗れの女だったものが残されていた。

ポタ……ポタ……

宙に浮かんだ手のひらから血を滴っていた。その様子を呆然としながら見ていると、手のひらはゆっくりと消えていった。

手のひらの下に視線をむけると、女だったものも同じようにゆっくりと消えていき、地面には血の跡だけが残っていた。