夢で語りかけてくる女
伊藤くんが大学生の頃、仲の良い同級生の鈴木くんが急に大学に来なくなった事があった。2〜3日姿を見かけないという事は大学生にはよくある話だが、鈴木くんは1ヶ月ほど大学に来ていなかった。他の友人に聞いても誰も顔を見ていないと言い、メールも返ってこない。
心配になった何人かの友人が様子をうかがいに鈴木くんの家に行ったのだが、インターホンを鳴らしても返事はなく、当然出てくる様子もない。
ある友人はドアのポストから中の様子を見たらしいが、気配は感じるものの部屋の中は真っ暗だったそうだ。
そんな話を聞いた伊藤くんも心配になり、彼の家へ様子を見に行った。
鈴木くんの家につき、インターホンを鳴らす。
ピンポーン
反応がない。何度かインターホンを押す。
ピンポーンピンポンピンポーン
ガチャ
カギの音がしてドアが開いた。反応があった事が意外で驚いていると、ゆっくりと鈴木くんが顔を出した。少しやつれたようで、顔色も悪い。
「伊藤か。入るか?」
「おう」
部屋に入ると聞いてた通り中は暗闇だった。
「お前さ、連絡くらい返せよな。みんな心配してるぞ」
「すまん……でも仕方なかったんだ……気付かれちゃいけなかったから……でも、大丈夫、もう大丈夫だ」
気付かれちゃいけない?誰に?
「そんな事よりさ、電気つけていいか?」
「…いや……明るくしちゃいけないんだ……」
明るくできない?さっきの事といい、疑問が重なる。そこで何故暗闇にいるのかを聞くと「…それはな……」と鈴木くんはゆっくりと語り始めた。
2ヶ月ほど前の事だ。鈴木くんはある夢を見た。それは、白い服を着た女の夢。女は自分の前に立っていて、自分に向かって何か話しかけている。だが、何を話しているか聞き取れない。鈴木くんは何度も聞こうとするが、やっぱりわからない。
夢からさめ、何だったんだろうとぼんやりしていると、壁の横に白いモヤのようなものが見え始めた。それは数分すると消えた。
それから毎晩毎晩、白い女の夢を見るようになった。夢の中ではいつも何かを話しかけてくるが、やはり聞き取れないまま目が覚める。そして白いモヤが現れる。
不思議な事に白い女の夢を見るたびに、その白いモヤが日に日に何かを形づくるようになっていく。
1ヶ月ほど経つと、それが人の形になっていくのがわかった。
鈴木くんはその白いモヤが夢に出てきた白い服の女になるのではないかと思った。それで、モヤが見えないように電気を消し、布団をかぶっていたそうだ。
「そんな見たくないなら大学に来ればいいじゃないか。なんで部屋から出ないんだ?」
伊藤くんが尋ねると、ひと呼吸おいて鈴木くんが言う。
「だって、もう手遅れだから」
それからゆっくりと手を上げると、斜め上、虚空に向かって指をさした。彼が指をさす方を見る。だが、伊藤くんには何も見えなかった。
「あの女、こっち見て笑ってるだろ?もう終わりだ。もう。」
帰り際、伊藤くんは小さな紙を鈴木くんに渡された。見ると紙には神社のお札のような文字が書かれていた。
「これがあればお前は大丈夫だから、今日はありがとうな」
それからすぐに鈴木くんは大学を休学し、地元に帰った。あれから数年経つが、伊藤くんは彼と会う事はなく、連絡も取れなくなった。
夢の中の白い女が何者なのか、鈴木くんに何を話しかけていたのか、それはわからない。ただ、あの日にもらったお札のような紙を伊藤くんは今でも大切に保管しているそうだ。
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