飛び降りる女の噂
マサトくんが高校生の頃、ある建物から飛び降りるという女性の幽霊が話題になった事があった。
始まりはある同級生の話から。その同級生が塾の帰り道、建物から今にも飛び降りようとふる青い服の女性を見えたそうだ。危ないと思い落下地点に駆けつけたのだが、そこには誰もいなかった、という話だった。
それからその話を聞いた不良連中が実際にその建物に行き、話で聞いた飛び降りる女性の幽霊を見てしまう。暗闇だったが青い服を着ていて、顔まではっきりと見えたらしい。
それから、夜中に女子数人で建物に潜入したり、マサトくん自身も前述の不良連中の1人であるリョウくんに無理矢理その建物に連れて行かれたりもした。
それから、マサトくんにはたまたま建物の守衛をしていた親戚から「あの建物で自殺した女なんかいない」という話を聞かされ、幽霊の正体は一体何なのかとクラス内での盛り上がりはピークに達した。
そんな幽霊話だったが、夜中に女子が外出していたのが高校で問題になった事で水を差され鎮静化し、1ヶ月もすると話題は駅前でドラマの撮影があるらしいという話題に移っていき、飛び降りの話もすっかり忘れられていった。
ただ、その時の不良のリョウくんとはオカルト好きという共通点もあって仲良くなり、高校卒業後も連絡は取り合っていた。
高校を卒業して20年ほど、マサトくんが30代後半に差し掛かった頃、夜中に突然リョウくんから着信があった。
電話を取るなりリョウくんが慌てた様子で話し始める。
「あの女が!あの女がいたんだ!」
パニックになっているのか、何を話しているのかわからない。マサトくんは一旦リョウくんを落ち着かせて、それから話を聞いた。
その頃リョウくんは医療機器を販売する会社で営業をしていたのだが、そのオフィスがたまたま例の幽霊が飛び降りる建物の隣のビルに入っていた。
その日、リョウくんは残業で会社に残っていた。夜7時頃、何やら外が騒がしいので何事かと外に出ると、ビルの前に救急車が止まっていた。どうやら、例の建物で飛び降りがあったそうだ。若い女性らしい。
救急隊員によって女性が担架に乗せられる。動いている様子はない、まだ息はあるのだろうか。そんな事を考えながら運ばれていく様子を眺めていると、その女性の顔が目に入った。そこでリョウくんにゾクっと悪寒が走った。
リョウくんが高校の時に見た幽霊と同じ顔だったのだ。
担架から見える服も青色で、あの時見た幽霊と特徴が同じだった。そんなことがあるのだろうか。不安に駆られて思わずマサトくんに連絡してしまったそうだ。
とりあえず、今日は帰って休んだ方が良いと言ってマサトくんは電話を切った。
この飛び降りは次の日のニュースにもなっていた。その女性は亡くなったそうだ。年齢は23歳だった。
マサトくんはリョウくんの見間違いなのではと思ったが、リョウくんはあの女を見間違えるはずがないと言って聞かない。
リョウくんの言う事が本当なら、もしかして飛び降りた女性がたまたまこの話を知っていた可能性もあるのではと考えた。だが、亡くなった女性は23歳で年齢的に合わない。
クラスの誰かの知り合いかと思ったが、クラス内という狭い中でほんの短い間に流行った話を他人にするだろうか。そもそも知っていたとして何故わざわざ服装や場所を合わせるのか、理由がない。
「それでリョウと話してて、飛び降りた女が幽霊になった後に20年、時を遡ったって考えないと説明できない、って結論になったんだよね」
マサトさんはそう話していた。幽霊が時を遡るなどという事はあるのだろうか。
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