本屋で会った友人

荒井さんが外出していると、急な雨に降られてしまった。野暮用で外に出ただけなので傘も持っていない。どこか雨をしのげる所をと探していると、本屋を見かけた。ちょうどチェックしたい雑誌があったので、雨宿りがてらに本屋に入った。


「お、久しぶり」


雑誌を立ち読みしていると、聞き覚えのある声で話しかけられた。声の方を見ると中学の時の友人、早田だった。


かなり久しぶりに会った事もあり昔話に花が咲き、本屋で小一時間ほど話し込んでしまった。


しばらくして外を見ると雨も上がった様子で、そのまま互いに「またな」と言って別れた。


本屋を出てしばらく歩いていて、ふと思い出した。


あれ、早田って高校の時に亡くなったんじゃなかったっけ?


確か、交通事故に合って亡くなり、お通夜に出た記憶もあった。もしかして幽霊になって俺に会いに来てくれたんだろうか。そう思うと荒井さんはなんだか嬉しい気持ちになった。



そんな良い気持ちを誰かに伝えたいと思い、飲み会の席で同じ中学の同級生だった友人にこの話をした。すると


「お前さ、冗談でもそんな事言っちゃ駄目だろ」


怒気を帯びた声で言う。そして続ける。


「早田は生きてるよ、お前がそんな事を言ってるのを本人が聞いたら悲しむだろ」


え、そんなはずはない。お通夜に出て、早田にお別れをした記憶もある、そう言ったが友人も引き下がらない。すると、友人はスマホを取り出して電話をかけ始めた。そして、荒井さんにスマホを渡してきた。


「おー荒井か、本屋で会ったぶりだな」


スマホから聞こえる声は亡くなったはずの早田だった。亡くなったはずだが、実際に早田が話す声が聞こえる。生きているのだ。おかしい。記憶と現実の矛盾に頭は混乱していた。



釈然としないまま帰宅した荒井さんは翌日、母親にこの出来事を話した。すると、母親は不思議そうな顔をして言う。


「そんな事ないでしょ、一緒に早田くんのお通夜に行ったじゃない」


母親も早田が亡くなったと言う。詳しく話を聞いてみると、荒井さんが記憶している話と全く同じ。矛盾はなかった。


「ほら、これも見て」


そう言って、古い家計簿を見せられた。そこには「早田くん香典 5,000」という文字があった。


勘違いではなく、荒井さんと荒井さんの母親にだけ早田が亡くなった記憶があるのだ。荒井さんには理解できなかった。



結局、荒井さんは早田が生きている事を受け入れて過ごしている。


早田が生きているのは嬉しい。ただ、今でも早田と会っている時に「本当は死んでたんじゃないのか?」と聞いてしまいそうになる。だが、何か取り返しのつかない事になるのではないか、そう思って聞けないのだという。

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