電車のなか

平日夜の電車は時間帯によってはあまり乗客がいない事がある。終電前になれば殆ど客が乗っていない事も多い。


ある日の会社帰りもそのような感じで、残業をこなして終電の1本前の電車になんとか飛び乗ったが、乗り込んだその車両には乗客は6人ほどしかいなかった。


学生時代から電車で小説を読むのが日課だった僕は適当に空いている座席に座ると、早速鞄から本を取り出した。


ドア、しまります。ご注意ください…


ページをめくり始めてすぐ、車掌のアナウンスが聞こえた。扉が閉まり、ゆっくりと電車は走り出した。立っていた乗客の体が揺れる。


ガタン…ゴトン…


音に合わせて電車が揺れている。ただ、そんな揺れが気にならないほど読んでいた小説に集中していた。


ガタン…ゴトン…


読み進めると文章中に「般若心経」という文字が出てきた。ふと「そういえば、般若心経ってどんなだっけ?」と気になり、うろ覚えながら般若心経を心の中で唱えてみた。


「ハンニャーハーラーミーター……」


もしかしたら声にも出してたかもしれない。


ガタン…ゴトン…

次は⚫︎⚫︎駅、⚫︎⚫︎駅…


次の駅か、と顔を上げた。すると車内の様子がおかしい事に気付いた。周りを見回しても誰もいない、車両はガランとして乗客は自分だけ。さっきまでいたはずの6人の客の姿はなくなっていた。


この駅は自分が乗った駅の次、その間に扉は開くはずがない。彼らはいつ降りたんだろうか。降りれるわけがない。もしかして、彼らは「人」ではなかったのか?そう考えてある考えに思い至った。


「そっか、般若心経だ」


彼らは「人」ではない、だから般若心経を聞いて成仏してしまったのだ。


誰もいないガランとした電車の中で1人呆然としながらも、たとえそれがうろ覚えでも般若心経が霊に効果がある事に驚きを隠せなかった。


もしかして


ふと、他の車両で般若心経を唱えたらどうなるか気になった。だが、自分以外の乗客がみんな消えてしまったら、と考えてしまい試す事はできなかった。

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