湯船の泡

今でこそ湯船に浸からずシャワーで済ますことは多くなったが、実家に住んでいた頃は毎日風呂を沸かし入浴していた。


我が家の場合は夕食の前にまず父親が入り、食後に自分や姉・弟が入り、最後に母親が入るという事が多かった。


その日、いつものように湯船に浸かっていると、脚の辺りから小さな泡がブクブクと上がってくるのが見えた。なんだろうと思っていると、少しずつ泡が大きくなっていく。そして黒い何かが浮かんできた。


人の後頭部だった。


は?何これ?と思っていると、浮かんできた頭がゆっくりとこちらを向いた。



父親の顔だった。



え?


思わず目を離すと、頭はいなくなっていた。



「うわーっ!」と叫びながら裸のまま風呂を飛び出した。


居間には父親と母親がキョトンとした顔でこっちを見ていた。


「どうしたの?」


母親に聞かれたが、父親の頭が湯船に…とは言えず


「いや……ゴキブリがいて……」


と適当に誤魔化した。


父親は今でも健在である。



あの頭は何だったんだろうか。

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