蓑虫怪奇異聞集
蓑虫
「僕」の話
落ちる音
急な退職者による欠員補充で異動となり、部署が変わった。引き継ぎも大してされず、慣れない仕事に残業する事が多くなった。
その日も定時では仕事をやりきれず、外が暗くなっても1人会社に残りパソコンで資料をまとめていた。しばらく作業をしているとキーボードを打つ音に混ざり、外から何やら物音が聞こえてきた。
ドサッ………ドサッ……ドサッ………
高い所から重い物が落ちる音。
ドサッ………ドサッ……ドサッ………
座席の背後の窓の外から聞こえる。気になって窓の方に振り返った。
ドサッ………………
すると物音が止まった。窓を開け外を見回す。だが、それらしき物は何も見当たらない。不思議に思いながらデスクに戻り作業を始める。
ドサッ………ドサッ……ドサッ………
また音が鳴り始めた。その日、この不思議な物音は仕事が終わった深夜まで聞こえていた。
それからも残業の日はこの現象に遭遇した。ただ、2人以上いる時ではなく、決まって1人で残業している時に起こっていた。1人になると物音が始まり、気になって窓の方を見ると物音が止まる。仕事を始めるとまた物音が始まるといった感じであった。
この現象のせいで特に何か被害があるわけではなかったが、そのままにしておくのはさすがに気持ちが悪い。そこで同じ部署の先輩に不思議な物音について相談してみた。すると先輩も何度も同じ体験をしているのだという。そして先輩は1つの話を教えてくれた。
先輩の話では、数年前に会社の屋上から飛び降り自殺した女子社員がいたらしい。原因は職場の人間関係だとか仕事の忙しさだとか、また異性関係だとか言われているが、はっきりとはわからなかった。
ただ、それから屋上から飛び降りる彼女の姿を見たという目撃談を聞くようになった。
彼女は死んだ後も魂は死に切れないのか、何度も屋上から飛び降り続けている。
ドサッ………ドサッ……ドサッ………
不思議な物音はその飛び降り続ける彼女が地面に落ちる音なのだそうだ。
1人で残業、今日もあの音が聞こえている。
ドサッ………ドサッ……ドサッ………
何度も飛び降り続ける女性、自分が死んだ事に気付いていないのか、もしかしたら誰かに気付いて欲しいのかもしれない。そんな事を考えながら作業を続ける。
ドサッ……ドサッ……ドサッ……ドサッ……………………………………
音が止んだ。後ろを見ていないのに物音が止む、こんな事は初めてだった。気になってパソコンから目を離し、振り返って窓の方を見る。
血だらけの女が空中で止まったままこっちをじーーっと見ていた。
逃げるように会社をあとにした。
それからどんなに仕事が残っていても1人では残業しないようにしている。
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