愛と青春の多様性デス!
司之々
1.同性愛者だったっけ?
昼休みの教室、お母さまのお弁当(こう言わないと怒られる)をありがたくいただいてから、デザートのツナ缶と牛乳に手を伸ばす。
プロテインは、高校生の
男子として十六歳は、まだ少し期待できるはずだけれど、制服の学ランも
カロリー消費が激しいのは、道場の
「おい、
たっぷりと二呼吸、間合いを確認しながら、声の
「……
「いや。ぼくに、直接は関係ない。
「思想だけで有罪にできないものかな」
なぜか悪名が
指導されて素直に従う人間が、そもそも危険思想に染まるわけがない。
俺は目の前の、この人間のクズの
「関係があるのは君だ、
この人間のクズは、頭の回転が速い。速すぎて、大体いつもマックスターンをキメている。
マックスターンというのは、古い映画に出てくる、バイク乗りの技だ。
前輪をブレーキした状態で腰を浮かし、後輪を高速で空転させる。道路との
俺が知っているのは、小学生の頃に父さんが、調子に乗って説明しながら失敗して骨折、すっぽ抜けたバイクが全損、激怒したお母さまに以後、我が家は自転車を含む二輪厳禁を
愛犬と書いてラブリープリンセスと読む我が家のアイドル、ゴールデンレトリバー、美魔女の五歳、アントワネットちゃんと自転車デートをする夢のために、いつか
それはそれとして、目の前の人間のクズだ。
頭はおかしいが、顔はいい。髪は長めでも清潔感があり、身だしなみには特に気を
脳みそを誰かと交換すればモテるだろうに、もったいない話だ。
「
「犬じゃないか」
「俺のラブリープリンセス・アントワネットちゃんを馬鹿にするのかっ?」
「すまない、失言だった。あやまる。フルコン空手の有段者に殴られたら死ねる」
「嫌味か。まだ、その前だよ。昇段の十人組み手には、スタミナが足りてない」
「ぼくが死ぬには
「
仕方がない。こんなのでも、
「よし。まずは、だ、
「……愛し合う男女が、夫婦になることだな。今までは、だけど」
「いい答えだが、正解じゃない。結婚は、国家権力が定める制度だ。考えてもみろ。そんなものが存在する、はるか以前の原始時代から、男女は夫婦になって子孫をつないできた。結婚制度は、人類の歴史から見れば、ごく最近できたものにすぎない」
「より正確に言えば、国家権力が税金を運用して、各種の
「さあ……? そこまで難しく考えたこと、ないよ」
「選挙権を得るまで、あと二年だぞ。考えておいた方がいい。その
「
「いや、ある。必要条件だ。だが、男女の愛に限られる。同性愛はこれまで、結婚の必要条件としての愛に、認められていなかった」
「それが認められた、ということだよな。個人的に関係あるかはともかく、まあ、喜ばしいことじゃないか」
「そうなんだ!」
「結婚は愛を必要条件として、その愛を
「それを言ったら、健康上の理由で子供を望めない夫婦や、老年になってから結婚する夫婦はどうなるんだよ?」
「
「同性婚が認められるということは、結婚制度から、この必要条件が消える! 結婚は愛を必要条件とするが、その愛を
「わかってきたよ……つまり、絶対に子供が産まれない組み合わせでも、そこに愛があると主張すれば……」
「誰も否定できない! 結婚の必要条件を満たせるんだ!」
「俺が、ラブリープリンセス・アントワネットちゃんと結婚できる未来がある、ということだな!」
「一足飛びには難しいだろうが、声を上げ続ければ、必ず通る! 否定するロジックが、もう崩壊しているからな!」
「確かに
「それは誤解じゃない自信がある。
「言ってくれ。今なら、多少の無理は聞く気になってるぞ」
「ぼくと結婚して欲しい」
思わず、手を握り合ったまま、
「多少どころじゃない無理を、一足飛びに超えたな……悪いけど、断る。俺はアントワネットちゃんと結婚するんだ」
「その時がきたら、離婚してくれて構わない。なんなら彼女と同居してもいい」
「また、わからなくなってきた。どういうことなんだ?」
「同性愛者ということにして、ぼくと同性婚して欲しいんだ。
「同性愛者でも正式な結婚をすれば、正式な家族となり、正式な家庭を持ったことになる。正式な資格として、養子を迎えて
「まあ……そうなるか」
「男の同性愛者の家庭が、男の子を養子にしたいと言えば、性的な警戒もされるだろう。逆に、男の同性愛者の家庭が、女の子を養子にしたいと言えば、安全と判断するしかない! 同性婚をした事実が、同性愛者であることを
「……んん?」
「ここまでを完璧に! 合法的に! 正式な資格として幼女を手に入れることができるんだ! 家庭という
座った状態から、腰をわずかに浮かし、右足首のひねりから力を
JAPAN空手の伝説のフィニッシュブロー、Gャラクティカ・Mグナムが再現できた。ような気がした。
もんどりうって吹っ飛んだ人間のクズの成れの果てに、今さら、少し冷静になる。いけない。思想だけで
個人的な再評価はともかく、令和の時代に認められるはずがない。むしろこっちが暴行傷害の現行犯だ。どう言いわけして、ごまかすか、ごまかせるか。
恐る恐る、周囲を見る。少しの
約一世紀を超えて、特高警察の正義が認められた。ちょっと感動した。
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