第4話 久しぶり
「久しぶり」
廊下で待っていると石橋くんに声をかけられた。
「あ、お久しぶり。優勝おめでとう」
「ああ、ありがとう」
「あの、ボール。どうぞ」
そう言ってボールを差し出すと、彼は固まった。
「あれ? ホームランボール返してほしい、ということではなく?」
「ああ、違うよ。どう言えば俺のところに来てくれるかな、って考えてさ。それでホームランボール取ってるところ映ってたから思いつき。まあ、それのおかげで見に来てるって知ったんだけどね」
「なんで」
「ん? 会いたかったから」
「どうして? 結婚するんでしょ?」
「うん、お前と」
「は?」
わけがわからない。でも、彼は当然でしょ、という顔をしている。その時、他の選手に呼ばれた。
「あ、やっべ。これ、俺の連絡先。絶対の絶対に連絡してくれ!」
そう言って彼の連絡先が書かれた紙を私の手に握らせて、送っていけなくて悪い、と言ってかけて行った。
そのまま家に帰った。石橋くんに連絡するのに躊躇い、携帯を開いて3時間は経った。どうしようか悩んだ結果、ワケを知りたくて彼に連絡したのだった。
優勝したので彼はすごく忙しいらしい。昨日の連絡には、こう返事が来た。
『連絡ありがとう。めっちゃ嬉しい。でもごめん。しばらく取材があって忙しくて。お前とはゆっくり話したいから来週の土曜に会いたい。お前の実家に行くから実家にいてくれないか』
ちょうどその日は休みだったので、了承の返事を送り、親にもその旨を伝えたのだった。
そうして土曜日。実家に帰ったらもう石橋くんが来ていた。
「真菜、お帰り。石橋くん、もう来てるわよ。お土産もらっちゃったわ」
そう言ってお母さんは嬉しそうにお土産を見せてくれた。それは、両親が好きなお菓子だった。
「これ、お前に」
そう言って石橋くんは私が好きなお菓子をくれた。
そうして3人で少し話した後、石橋くんはそろそろと言って、私に話があると言い始めた。流石にお母さんの前では恥ずかしいので、部屋に呼んだのだった。
「久しぶりだな。お前の部屋に入るの」
「そうだね」
「急に悪い。どうしても言いたいことがあった」
「うん」
「好きだ。鈴野が。中学の時からずっと好きで、好きじゃない時期なんてなかった。別れてからも、プロになってからもずっとずっと大好きだった」
「でも、結婚するんでしょ」
「お前と」
「だから、どういうこと?」
「俺の母さんと、鈴野のお母さん仲良しだろう? この前お前がフリーなこと、まだ俺が好きだってこと聞いたんだ。それで、まだ両想いなんだ、って嬉しくて気づいたらそう言っちまった」
あの衝撃のインタビューの前。家族に不安なことを漏らしたらいい。高校2年生の時のようになったらどうしようと。そうしたら彼のお母さんが、こう言ったらしい。
『これで優勝したら真菜ちゃんを迎えに行ったら? 彼女フリーらしいし、まだあんたのこと想っているみたいよ』
それが頭に残っている状態でインタビューを受けたので、ポロっと言ってしまったらいい。なんというか。すごい石橋くんらしい。
「お前にいう前に全世界に言ったのは悪かった。本当にごめん。でも、諦められない。俺と付き合ってほしい」
「でも、石橋くんが別れようって」
「うん、言った。ちゃんと聞いてくれる?」
そう言ってその時のことを話してくれた。
私がこころに医学部に行って医者になりたい、と話しているのを聞いたらしい。そうして医師について調べたところ、研修医の時期と彼がうまく行って海外に行きたいと思っている時期が被っていたらしい。私を連れていけない。かといっておいていけない。日本と海外という遠距離では不安すぎてメンタルがやられてしまう。そう思った彼は、私と高校で別れることを選んだという。あの私を振った日は、嫌われるためにわざと遅刻したのだとか。
「あの時は子供だった。同じ学校でも不安になるのに国が違う、ってなったら絶対に無理だって。そう思い込んでいた。本当にごめん」
「うん」
「でも今は違う。もう大人だ。国が違っても俺は不安にならない。不安にさせない。だから、俺ともう一度付き合ってほしい」
「私もずっと好きだった。忘れようと思ってもできなくて。今回で完全にシャットアウトしようと思ってて。でも、私でいいならこちらこそよろしくお願いします」
そう言ったら彼は思い切り私を抱きしめた。
「ありがとう。ずっと好きでいてくれて。タイミングギリギリだったけど」
泣いてしまった私を、ずっと抱きしめて慰めてくれていた。
その後。リビングに行ったら、私と石橋くんの両親がそろっていた。家に着いたとき、お父さんがいなかったのは、石橋くんのご両親を迎えに行っていたかららしい。
「え」
「「「「おめでとう!!」」」」
「いやー、長かった! 号泣して帰ってきた後はすごい心配したんだがな」
「うちのばか息子が本当にすみませんでした」
「いいんですよ。司くん、すごく素敵になって!」
「真菜ちゃんだって美人さんじゃない! こんなに素敵な子が未だにフリーだなんてびっくりよ!」
えっと? 石橋くんと私の両親がすごく盛り上がっているんだけど……。よく分からなくて石橋くんをみたら目をそらされた。
「ちょっと、どうして」
「あー、言いました。今日鈴野に会って告白するって。そしたら、すっごい盛り上がって。お祝いだ! ってこうなりました」
「ふふ。そっか。嬉しい」
「良かった。先走りすぎたかと思ったけど」
そう言った石橋くんは、私の手を引っ張って4人の目の前に行った。
「今まで、真菜さんをたくさん泣かせて悲しませてしまい、申し訳ありませんでした。これからは、悲しませないと誓います。真菜さんとの交際を認めていただけないでしょうか」
そう言って頭を下げた。嬉しい。私もちゃんと言わないと。
「司くんのことを一番近くで支えていきます。幸せにするので、交際を認めていただけないでしょうか」
そうして私も頭を下げた。そうしたら。
「もちろんだ! 司くん、真菜のことをよろしく頼んだよ」
「ああ。お互い支えあって最高の夫婦になってくれ!」
「ありがとうございます」
あ、え? 今夫婦って聞こえたんだけど?! でも、突っ込んでいる場合ではない!
「ありがとうございます」
そうして無事交際を認めてもらい、その日の夕飯はお祝いとなったのだった。
その後。石橋くんに、親父に先に夫婦って言われてなんか悔しい、俺が一番に言いたかった、と伝えられ、嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になってしまった。
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