夢猫
@misaki21
第1話 夢猫
長く一緒に暮らしていた黒猫が、時たま夢の中に出てくることがある。
一緒にいた頃と変わらない様子で。
久しぶり、とも、懐かしい、とも私は感じず、逆にその黒猫がいるのが当たり前と言った調子なのは毎回のこと。
思い返すのは嫌なのだが、随分と長い付き合いだった。
まだ目が開かない時からなので十数年になる。
出会いは今でも覚えている。
その日、仕事が休みだったので昼までベッドにいた私は、アパートの外から聞こえる子猫の鳴き声を何ともなしに聞いていた。それが数時間に渡ったので気になって階段を下りて行ったら、小さな黒猫がいた。
「ウチに来るかい?」
そう告げて子猫を家に迎え入れ、すぐさま動物病院で検査してもらった。特に異常はなく、その子猫は家族となった。
子猫をコートの内ポケットに入れて出歩いてみたり、知り合いに写真を撮って貰ったり、時にはアパートから脱走して、ボロボロになって帰ってきてを繰り返したり、色々なことがあった。
一人暮らしだったこともあり、その黒猫は私の良き話し相手でもあった。
転居し、そこにもすぐ慣れた黒猫は、育った環境からか自分を人間だと思っているようだった。
いるのが当たり前に過ぎて、黒猫が亡くなった日、私は動揺……しなかった。
涙の一つも出ず、悲しいとも思わず、強いて言えば「いなくなったんだ」と思った程度だった。
我ながら冷たいと思う。
夢の中でたまに会う黒猫はまあまあ元気にやっていて、私は特別感情が揺れることはないが、安心感のようなものを感じる。
ああ、いつものようだな、と。
――おわり
夢猫 @misaki21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます