第63話

 教務主任の指示に従い、候補者と推薦者が舞台に上がっていく。演説は書記から始まり、会長で終わるらしい。その間は天野さん達候補者も聴衆の一人となって待機する。候補者と推薦人に選挙権はないので、聞いても自身の演説の改正くらいしかすることはない。


 視線を舞台から外し、待機している列を見る。書記が七人、会計が四人、天野さんと同じ役員に立候補した人はいないか……。書記は二人選ばれるので、かなりの人数がそこを狙っていたはずだ。けれど、これだけしか人数がいないのを見ると、審査が如何に厳しかったかがわかる。


 にしても、林の奴しっかり選ばれてやがる。普段の行いが悪すぎる癖にどうやったんだか……。


 そうやって周りを観察して出番までの時間を潰す。俺たちは会計の後だから、まだまだ時間がある。なので、今度は後ろを見る。


 後ろには副会長の立候補者、推薦人。さらに、その後ろに会長立候補者と推薦人がいる。副会長は一人か、会長は……二人!?


 相手は一ノ瀬さんと一先輩だぞ?正気かよ……。 


 後ろをちらちら見ながら驚いているとポンポンと隣から肩を叩かれる。


 「あんまりキョロキョロしないの。目立つよ?」


 「悪い悪い」


 コソッと天野さんと言葉を交わして視線を舞台に戻す。キョロキョロしているうちに着々と進んでいる。一ノ瀬さんに挑む生徒の顔を見たいが、嫌でも後で見れるので今は大人しくしておこう。


 


 「行くよ、神崎君」


 「ああ。あと今日の朝ご飯も美味かったよ」


 「それ、今言うこと!?」


 「緊張してるみたいだったから。余計なお世話だったか?」


 「ううん、ありがと」


 軽く会話をしながら舞台に上っていく俺たち。もちろん聞かれれば減点対象だろうが、そこは配慮している。


 演台の前に天野さんが立ち、俺はその右後ろに二歩下がったくらいの位置に立つ。先に天野さんが話すのでその間は俺は立っているだけの人形でいい。とても楽。そして何よりも上から全生徒を見下している感じが……もう最高。


 「皆さんおはようございます。二年四組、天野奏です。部活動に所属している方には馴染みのある顔だと思います。今話したように、部活動に関することが管理官の主な役割です。では、部活動に所属していない生徒には関係がないのか、というと違います。行事の際に使う備品の管理、予算の設定など見えにくい裏方のことを任されています。

 言わば、管理官は縁の下の力持ちです。私はその役目を果たせるように、これからも日々努力していきます…。ご静聴ありがとうございました」


 アドリブ入れたな……。練習よりも簡潔になっている。聞かなくとも大体何をするのかわかる他の役員と違い、管理官はその仕事内容が明確じゃない。

 だから、大体の仕事を話すのは知っていたけど、二つあったアピールを一つにするとは……。


 礼をしてから下がってくる天野さん。ここから見える限りでは反応も良さそうだし、俺がしくじらなければ大丈夫だろう。ま、俺のは推薦演説とか言ってるけど、天野さん凄いぞアピールだからな。


 今度は俺が一礼をして、一歩前に進む。よーし、天野さんが恥ずか死するくらいに、全生徒の前で褒めちぎるぞぉ。




 「…着席。投票方法を連絡します。教室……」

 

 全員の演説が終わり、最後に投票方法を伝えられて教室に戻る。ぼんやりと聞いたところ、結果がわかるのは明後日の朝らしいが、誰も相手がいなかった以上、天野さんと副会長の瀬戸さんは確定だ。




 とある男子生徒視点。


 「顔見ないでください///」


 「ふっふーん。照れてるんだ?天野さん」


 「あのっ、あれは彼が勝手に」


 「ぶっちゃけ、どうなの?」


 「どうもなにも。ゆ、友人ですので」


 「ホントに~?」


 きゃいきゃいと教室では女子が天野奏を取り囲み、先ほどの神崎の熱弁の真相……というより神崎とどうゆう関係なのかを問い詰めている。男子はというと絶望に打ちひしがれ、神崎排斥大作戦を教室の後ろのほうで立てている。


 その様子をボーと眺めて思い返す。あれは恋人のしてることを、ただ赤裸々に全校生徒にバラしただけで演説じゃなかったことを。


 それにしても、意外だ。清楚っぽくて、大人しい印象の天野奏が、まさか一人の男に対して通い妻的なことをしているなんて。人は見かけによらないと聞くけれど、まさかまさかだった。


 というか通い妻って、恋人でもそんなことしないと思うんだけど……ラブコメじゃあるまいし。

 でも、それをするくらい神崎って奴のことが好きなんだろう。そんなに想って貰えるなんて幸せものだな、神崎は。

 





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また、問題が増えたけど取り敢えず選挙終わり。

今日中にヤンデレ姉妹も更新します。

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