第61話

 一人で帰るのが寂しいから俺を探してたって?

 なんだそれは。なんだその可愛い理由は。


 「なぁ、割り込むようで悪いんだけど。天野さんって神崎に好意あるのか?」


 ド直球な質問を林がぶつけているが、脳内をさっきの一言に支配されている俺はそれに一切反応を示せなかった。


 「友人として……ではなくですか?」


 「そうそう」


 「……」


 「あー、無理に聞こうって訳じゃないんだ。本人いるし、言いにくいのはわかってるから」


 「ある……んじゃないですかね」


 「なんで疑問形?」


 「正確にはわからないんです。確かに一番関わっている男子生徒です。好意がないといえば嘘になりますが、恋愛感情……かと言われるとそうではないような気がして」


 「なるほど……。悪いね、無理に聞いて」


 「いえ、隠すほどのことでもないので」


 「はっ、もしかして今、俺振られた!?」


 「ああ、そうだ。お前は天野さんに、それはもうボロクソに言われて振られた」


 「平然と嘘を吐く人なんですね、林君も」


 「ちゃっかり俺を含めないでくれない?」


 俺がフリーズしていた間に何を話していたのか気になるが、それは置いておいて林に俺を呼び出した理由をまだ聞いてない。

 天野さんが来たから後日にするにしても、予定はある程度決めておかないと。


 「で、呼び出した理由は?」


 「相変わらず話題変更が急だな……。ま、天野さんの迎えが来たしな。ちゃっちゃと話して終わろうか」


 「そうしてくれ」


 「私出ていたほうがいいですか?」

 

 「いや、いいよ。じゃあ神崎、落ち着いて聞けよ?」


 「早よ話せ」


 「ああ、どうやら一さんがこっちに来てるらしいんだ」


 ガタっと俺は椅子から勢いよく立ち上がる。その反動で椅子がガタンと大きな音を立てて倒れた。逃げ出したくなる感情を、拳を握りしめることでどうにか押し殺す。


 「ふぅ。一応伝えておこうと思ったんだが、これ以上はやめておいたほうがいいか?」


 「……続けてくれ」


 「今日の昼休みに何故か会長が俺にわざわざ伝えてきたんだ。数日はこっちに滞在する予定だってな」


 「そうか、情報共用助かるよ」


 そこまで聞いて、足早に立ち去ろうとする俺を林が呼び止める。


 「まだだ」


 「まだ?」


 「ああ、お礼を言いたいと言っているら……」


 「断る!」


 「そうか……。俺からそう伝えておくよ。悪かったな」


 「すまん、頼んだ」


 ふらふらになりながら教室を後にする。まだ駄目か……。あそこまで取り乱すとは自分でも思っていなかった。林には悪いことをしたな、今度何か返さないと。あと天野さんにも……。


 「ね、神崎君」


 「天野さん……」


 何故か後ろについてきていた天野さんに呼ばれたので、足を止め振り返る。天野さんは目を輝かせながら、今の雰囲気をぶち壊すことを告げた。


 「スイーツが美味しいカフェが帰り道にあるでしょ?新作が出たみたいなの」

 

 けれど、俺にはそれがありがたかった。


 「……行くか。奢るよ」


 「太っ腹だね。ご馳走になります」

 

 「昼に色々迷惑かけたし」


 「それは気にしなくていいって昼にも言ったよ?」


 そう言われても、何もしないというのはダメだ。受けた恩はどんな形であれ返さないといけない。だから俺は、あの子にもちゃんと返さないと……。そうは思うが、今は考えないようにする。


 天野さんは知らないが俺はカフェに、滅多に行かない。最後に行ったのは高一の夏の頃だ。今後も行くことは殆どないと思うので、せっかくの機会に普段食べられないデカいパフェでも食うか、と一人意気込んでカフェへ歩いた。

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