第60話
放課後、俺は天野さんと帰る予定だったが、林に呼び止められたので断りの連絡を入れる。
スマホをポケットにしまい、何故か林が格好つけて座っている教卓のほうを向く。
「行儀悪いぞ」
「バカップルめ」
「今のどこにバカップル要素があったんだよ!?」
「一緒に帰る約束してるとか、もう言い訳出来ないだろ」
「中学生か!?人の恋愛が大好物の中学生なのか!?」
実際、中学生ってそういうの大好きなイメージしかない。しかも、人の恋路を見守るタイプではなく口出しするタイプが多いのが厄介だ。
高校生も……というより、うちの高校の生徒はこの前の噂の件を見る限り同じようなものだろうけど。
「俺も彼女が欲しい」
「第一好きな子いるのか、林って」
「女の子は皆好きだぞ?」
「ストライクゾーンが広すぎる、もっと具体的なのは?」
「(天野さん+宮野さん+倉田さん)×2」
「よし、お前の理想は高すぎて人類じゃ叶えられない。未知の生命体の中に自分の理想がいることに期待したまま眠ってくれ」
「叶う前に埋まるのか」
「ああ、残念ながら……」
それにしても、天野さんと宮野さんと倉田さんを融合した後に、全ステータスを二倍した人か。うん……。どう考えても人間には到達不可能だな。
「ま、さすがに冗談だ。そんな完璧超人がいたとしたら、付き合った瞬間消し炭にされ可燃」
「黒子。林の座っている教卓持ってって」
「なんでだよ!?」
「え、上手くなかったから」
「黒子は何処にいるんだよ」
「そんなのいるわけないだろ。ちょっとは頭使えよ」と言おうとしたとき、開けっ放しのドアのほうから声がした。
「ここです」
「…………え?」
「あ、天野さん!?」
「はい、天野さんです」
連絡いれたよね、俺。も、もしかして送信できてない?たまにあるネットの調子が悪くて送信できないやつがタイミング悪く起きた?
ポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く……。ちゃんと送信できてるし、既読もついてる。
トンと林が教卓から降りてガタガタと椅子に座り、耳打ちしてくる。
「聞いてないぞ、天野さんが来るなんて」
「俺も驚いた。ほれ、メッセージ送ってあるだろ?」
「おお、んじゃあ、何でここに?」
「わからない。久々の脳内会議で乗り切ろう」
「いい案だ」
林とひとまずの情報交換をする。俺だって何故彼女がここにいるのか、全く見当がつかない。忘れもの……はクラスが違うし、相談……なら別にメッセージをすればいいはず。考えるほどに沼に嵌っていってる気がする。
「二人でコソコソと何を話しているんですか?」
「いや、何でもない。それよりも、クラスが違うけど何故ここに?」
「神崎君を探していたんです。一緒に帰る約束をしたのに、一向に来ないので」
「連絡を入れてあるんだけど……」
「はい、知ってますよ?」
(林、天野さんの目的はなんだ?)
(俺にもさっぱりだ。だが、目当ては神崎。お前だな)
(その理由だよ。怖すぎるって。あの微笑み、絶対裏がある)
(フッ、あれが暗黒微笑というやつか)
(現実逃避するな!頼むから)
(ふふ、楽しそうで何よりです)
もう、この方法やめたほうがいいかな。
通称(俺と林の間でそう呼んでいるだけ)脳内会議は実際はアイコンタクトや手の動き等でなんとなくで話している。これは動きが挙動不審になるくせに動きの意味を決める必要があり、それを覚える必要があり、そして話すのと並行してそれを読み取り瞬時に応答しなければいけないという良く考えなくても使えないとわかる代物だ。
俺と林は授業中もこの(欠陥だらけの)方法で話せることに気付いて夢中になり、三ヶ月の苦労の末にようやく身に着けた。しかし、実践当日に俺と林が前後の席になったため授業中に使われることはなかった。
そんな俺たちの(無駄すぎる)努力の結晶が、たった二回のやり取りで見抜かれていては、あの三ヶ月はなんだったのかと叫びたくもなるが、とりあえずは仕方ないと割り切って、素直に理由を聞くことにした。
「なぁ……、天野さん。一つだけ聞きたい」
「何でしょう」
「俺を探していた理由は?」
「一人で帰るのが寂しいからです」
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あと三話くらいで選挙の部分が終わります。
選挙後はもっとサクサク進む……かも。
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