第59話

 揶揄いたいとか以前に何故知ってるんだ?……家が近いからか。


 「何と言われましてもね」


 「私に言えないこと?」


 「いえいえ、我々は楽しくパーティーをしていたんですよ」


 「パ、パーティー?」

 

 「ええ、ええ。楽しく煽りあっておりました」


 「私の知ってるパーティーなのかな、それ……」


 パーティーであってるはず。うん。嘘は言ってない。パーティーよりも前の部分が大事ではあったけど、それは天野さんにそれとなく伝えてあるから問題なし。


 それにもう一回やりたいとは、とても思えないパーティーだった。もう、完璧に、確実に、絶対に次やったら友情崩壊確定。集まるにしても違うゲームにしようと決心したくらいだ。


 「うーん。神崎君のその表情を見るに結構大変だったみたいだね」


 「はは。あと一歩で一ノ瀬さんに憎悪を抱くところだっただけだ」


 「一体何があったら、パーティーっていう楽しそうな場でそんな感情が芽生えるの!?」


 「はは」


 あまり話したくないし、思い出したくない。ただただ俺が、宮野さんと一ノ瀬さんにぼこぼこにされる話しか出てこないから。


 よって話題変更!!


 「明日いよいよ選挙だろ?」


 「そうだね。先生に聞いたんだけど人数を結構絞ったみたい」


 「だよなぁ。結構多いってことは聞いてたから、何らかの対策をしないと演説だけで午前中全部潰れる可能性もあったかもしれないし」


 「それは大袈裟だと思いたいね」


 「俺もだよ。間違いなく、天野さん達の影響力の凄まじさを目の当たりにした瞬間だったね」


 凄かったもんな。生徒会役員選挙の立候補に必要な紙に集まる男の大群。何でも本来は余るからと二十枚も刷らないのに、今回は百枚近く刷ったらしい。


 やっぱ美少女ってすげー、ってその群れを見かけたときは思ったね。


 「そんなことになってたんだ……」


 「昼休み開始後の五分くらい、職員室前の廊下が通れなかったくらいには」


 「ほへ~」


 「今思い返すと、男の原動力が可愛い女の子だってことを垣間見た瞬間でもあったのかな」


 「それは人によると思うけど……」


 ちなみ俺も一日目だけ挑戦した一人である。参加するつもり何てなかったが林に「取ってきたら飯を奢ってやる」と提案されていたからだ。


 もちろん、敗北したが。


 林は二回目の紙が置かれたときに獲得したらしい。


 「動機が不純でも精一杯頑張ってくれるなら、私は歓迎だけどね」


 「そうなんだ」


 「うん。私も入った動機は不純だから」


 天野さんが不純なら俺なんかヘドロ以下の何かになるんだけど。それホントに人が見ていいものなのかな?見たら皆が気分が悪くなる物体とかじゃない?


 「今日の自虐凄いね!?もう被害妄想もそこまで行くと怖いよ」


 「俺に心のノートをくれぇぇ」


 「はい、どうぞ」


 「おお、気が利くねぇ。ありが……」


 ん?今どっから心のノート出したんだ?何も持ってなかったはずだけど。

 いや、これ以上考えるのはやめておこう。


 「神崎君といると話したいこと忘れちゃうんだよね、どうにか出来ないかなぁ」


 「十割俺が悪いことだね、それ」


 「そうだな~。いっそ神崎君がふざけられないように、口ふさいじゃう?」


 「初めから考える手段が力業過ぎる!」


 「だね。もっと穏便に……ってやってるから話せないんだよ」


 ディス イズ ノリツッコミ。完璧な流れだった。


 「ぶらぼー」


 「称賛はいらないよ……。さてと、だいぶ時間が迫ってきたね」


 そう言われて時計を見ると、後一分で休み時間に入るところまで時間が進んでいた。ダラダラ話していたら、いつの間にかそんなに経っていたのか。


 「チャイムが鳴ったら先生に謝りに行かないと」


 「だなー。どう謝っても、ぼこぼこにされる未来しか見えないけど」


 「神崎君は日ごろの行いが悪すぎるの!ちゃんと改善しないと」


 「まったくその通りでっせ」


 「誰!?」


 キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。やり取りの最中だってのに、なんて間の悪いチャイムなんだ。


 「改めて、ありがとう」


 「いいって。私がしたくてやったことだから」


 「それでもだ」


 「そっか……。どういたしまして!」


 「じゃあ」


 「うん。また帰りね」


 



 「天野、何かあったのか?」

 

 「すみません。少し体調が優れなくて、昼食をとった場所で休んでいました」


 「あ~そうか。今は体調に問題は?」


 「少し頭痛がしますが、大丈夫です」


 「そうか、気を付けろよ?ここ最近色々流行っているからな。それと、以後同じようなことがあった時は誰かに連絡するように」


 「はい」


 「よし、行っていいぞ」


 「失礼します」


 職員室から出て、教室に向かう。先生に嘘を吐いてしまったのは心苦しいが、本当のことなど言えるはずがない。だって……私が一番驚いている。神崎君と仲がいいとは言え、あんな大胆に///


 勝手に思い出そうとする頭を、ぶんぶんと首を振って揺らすことで妨害する。少し思い出すだけで、湯気が出そうなほど顔が熱くなる。この顔の熱が収まるまで私は教室に戻れそうにない……。

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