第58話

 しばらくして、気持ちが落ち着いてきたところで天野さんの胸から顔を上げる。少し寂しい気持ちはあるけど、ずっとこのままという訳にはいかない。


 「ありがとう」


 「いえいえ」


 「おかげ気持ちが楽になったよ」


 「そっか。なら、胸を貸した甲斐があったかな」


 俺が志藤先生に対して抱いていた感情を、天野さんに吐き出してようやく整理することが出来たんだ。始めから間違っていたことを、一度否定して蓋をしたことを、ようやく正すことが出来た。


 「悪いな。もう五時限目が始まってるのに」


 「急に真面目な話になるね!?」


 「俺はいいけど天野さんは生徒会生徒だし、明日は選挙があるのに……」


 「あ~、確かに」


 今、気づいたのか。まさかのポンコツ天野さんだった。今まで周りを見てその時に応じて何でもこなすオールラウンダーだと思っていたけど、案外一つの事に集中するタイプなのかもな。


 「でも、たまにはいいかな」


 「悪い子だなぁ」


 「誰のせいだろうね?」


 ポンコツではなく小悪魔だったみたいだ。二へッといたずらっ子のように笑う小悪魔天野さん。


 「何だか得した気分だね」


 「得って?」


 「神崎君の弱ってる姿を見れたから」


 「…………」


 「恥ずかしんだ?いいんだよ。隠さなくて」


 「揶揄ってるな!?」


 「半分ね。半分は本音だよ。これからは一人で溜め込み過ぎないで、ちゃんと私を頼ってね」


 「ああ。ホントにありがとう」


 誰かに頼れるってのは心強いな。別に今まで頼ってこなかったわけじゃない。でも、こういうお互いを頼れる関係は初めてだ。


 「さて、後三十分なにしようか?」


 「授業には戻らないんだな」


 「さっきも言ったけど、たまにはいいの」


 「知らないぞ、落選しても」


 「それはダメ。責任は取ってもらうから」


 「ダメなのか……」


 まあ、言ってるだけで天野さんが落選することはないだろう。俺は手を抜くつもりはないし、天野さんも全力で挑むからだ。


 林の当選は……難しいだろうな。そもそもあいつ審査通ったのか?でも何かと出来る奴だから、案外……。いや、無理だな。あいつは周囲からの評価が終わってるし。


 「神崎君はさ、夢とかあるの?」


 「いきなりだな」


 「暇だからね、雑談の話題」


 「夢か……」


 「近い将来のことでもいいよ」


 「あるよ」


 「なに?」


 「天野さんを当選させること」


 「…………ふーん」


 慰めてくれていた時の暖かい目が嘘のような、すごく冷めた目で見られてるな。しかも距離が近いせいで心なしか気温が下がってきた気がする。


 「いや、あのぉ」


 「神崎君。嬉しいけど、そうじゃないかな」


 「えっと、理解しております。ええ」


 「そうやって逃げることが出来るのは大切なことだけど、相手は選ぶべきだよ?」


 「はい。承知しております」


 「なら、よろしい」


 こんなこと気のせいだと思いたいけど、天野さん最近少しずつSっ気が出てきてない?俺のことを誂って楽しむことが増えてない?気の所為かな?


 「そういえば、神崎君。夢は置いておいて、もう一つ聞きたいことが……」

 

 「はい、何でしょう」


 「昨日、一ノ瀬さんと宮野さんを家に上げて何してたの?」


 おっと……。どうやら、天野さん(S)はまだ俺のことを揶揄いたいようだ。





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天野さんも属性が増えだした!?

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