第55話

 今日も天野さんと並んで歩いて登校してきたのだが、教室で俺はそのことについて林に詰め寄られていた。


 「抜け駆けしやがってぇ!」


 「してない」


 「俺だって天野さんに起こしてもらう毎日がいい!」


 「お前の欲望は知らんけど、俺は一緒に登校してるだけで起こされてはないぞ」


 ここ数日は起こしてもらってるけど。とはいえ、ここは嘘をついておかないと絶対に面倒事になる。しかし、さすがは同類。抱く欲望も似ているのか……。欲望を口に出されたときは、さすがにヒヤッとしたぞ。


 「羨ましいなぁ~。なんで神崎ばっかり優遇するんだ、神様は?」


 「急に神に語り掛けるなよ。しかも、そんなどうでもいい話題で」


 「俺にとっては死活問題だ」


 おお、こうも切実に言われるとは。しょうがない。噂を上書きするために一役買ってもらったし、励ますくらいはやってやるべきだろう。


 「林、気にするなって。いい出会いがお前にもきっとあるって」


 「俺は忘れてないぞ。お前が生徒会メンバーを紹介してくれるって話」


 「うぐっ。だ、大丈夫だ。覚えてるよ」


 「なら!!」


 「でも、まだ全員とは仲良くないんだよ」


 「そうなのか」


 「そう、だからまだ紹介は出来ないけど。……林なら良い彼女ができるから」


 「ありがとう神崎。俺頑張るよ」


 「ああ、頑張れ」


 林が珍しく感極まった声で決意を表明する。そして示し合わせたかのように、俺たちは互いに抱き合う。ひそひそと周りから話声が聞こえるが今の俺たちには気にならない。


 「やっぱり、そうなんだ」「どっちが受けかな~?」「意外と林君かも」


 ……どうやら俺たちは今正式に標的になったみたいだ。


 ポンポンと肩を叩いて抱擁を解く。これで大丈夫だ。林から天野さん関連で詰められることは、しばらくないだろう。


 「神崎お前はいい奴だ。おかげで自信が少しついたよ」


 「あ、ああ。それはよかった」


 すまん、林。励ましたつもりだが噂の信憑性を高めただけかもしれん。


 「そうだ、昨日一ノ瀬さんと宮野さんを街で見たんだよ」


 「そ、そうなのか?」


 「おお、その二人の組み合わせ珍しくないか?」


 「確かにな、イメージ出来ない」


 「だろ?美少女二人が並んで歩いてる姿は眼福だったぁ」


 林、ホントにごめん。言わないけど、俺はその二人と昨日ゲームして遊んだんだ。だから全然イメージ出来てしまう。ホントにごめん。


 「何だ?その顔」


 「お前も俺の顔のこと言いだすのかよ。ずっとこの顔だ!」


 「いや、ムカつく顔してたから」


 どうやら無意識マウントが顔に出ていたらしい。いっそのこと、ポーカーフェイスの練習とか始めようかな。


 「ま、いいや。今日の飯……」


 「わかってる。俺の奢りでいい」


 財布から千円札出し林に手渡す。学食は学生の財布に優しく千円あれば、どのメニューも頼むことが出来る。


 「あ?なんで現金?」


 「今日も食堂には行けないからだ。そうだ。……釣りはいらねぇ」


 先程の励ましとお釣りまで含めて、一役買ってもらったお礼だ。

 

 「じゃ、遠慮なく。それと気になったんだが、ここ最近どこで飯食ってるんだ?」


 「生徒会室」


 「はぁ?一人で?」


 「天野さんと」


 「やっぱ付き合ってんな。それ」


 「何でだよ」


 「いや、二人で登校。二人で昼食はもう……確定じゃん」


 「確定してねぇよ。チャンスもねぇよ。ノーチャンスだよ」


 事実だけど自分で言ってて悲しくなってきた。もう彼女とか無理じゃないかな。志藤先生に振られたし。


 「急に女々しくなるよな、お前。そうそう、志藤先生さ」


 「……ああ」


 「できたらしいぞ」


 俺は絶望した。





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 何故かトドメを刺す林君。

 

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