第53話

 「神ちゃんゴールまで遠いねぇ。間に合うかなぁ?」


 「はっはっは。甘いな宮野さん。俺には、このぶっ飛びがぁぁぁ。ちょ、飛びすぎぃぃぃ」


 「さよなら、神崎君」


 


 「そ、そんなもう三回目だよ!?」


 「運がない、運がないよ宮野さん。五を一回出すだけでゴール出来るのになぁ」


 「ふふ、宮野さん。お先に失礼しますね」


 「ああー!あおっち……そんなぁ」


 「ははは。どんまい」


 「むぅ、神ちゃんゴールから一番遠いからデビル憑くけどね!」


 「…………」


 「神崎君、目を逸らしたところで状況は変わりませんよ」


 「冷たい!二人とも真冬の水みたいに冷たいよ!!」


 「あれはもう痛いになるよねぇ」


 「わかります」


 「おい、ゲーム中だぞ!」


 「神ちゃんが話題変えたのにー?」


 


 「よっしゃあ、やっと擦り付けられた」


 「神崎君、ここは逃げるためにカードを使うべきでしたね」


 「な、やめてくれ一ノ瀬さん。お願いだぁぁぁ」


 「お断りします」


 「ぐわぁぁぁ」


 「詰めが甘いねぇ神ちゃん」


 「くっそ。また金を奪われるのか」



 

 「ゴール遠すぎ!!」


 「神崎君と同じ思いです。このターンでようやくゴール周辺に来れました」


 「あおっち、来て早々でごめんけど私ゴールしちゃうね?」

 

 「み、宮野さん!?それでは、ここまでの努力が……」


 「頼むぅぅ、宮野さん。そのスティックを動かさないでくれ。また、またデビルが憑いちまうからぁ」


 「それは聞けない頼みだねー」


 「「ああああ」」




 ワイワイ。ガヤガヤ。


 三人とも普段からは考えられない程声を上げて、お互いに煽りあってゴールを目指した。そしていよいよ……。


 「私の勝ちです」


 「あおっちー、最後の追い上げすごっ!」


 「でびるでびるでびる……」


 「神ちゃんは運悪すぎ」


 結果として勝ったのは、ゲームを普段はあまりやらないと言っていた一ノ瀬さんだった。二位は宮野さん。最下位が俺だ。開始前の宣言通り、一ノ瀬さんにぼこぼこにされた。


 「楽しかったねぇ」


 「はい。とても」


 美少女二人がソファの上でプレイの振り返りをしている。それを見ると、こういうのもたまには良いなと思う。


 さてと……二人のことを送らないと。時計を見ると既に時間は七時半近くになっている。一回戦だけとはいえ長く遊びすぎたかな。


 「お二方。キリもいいし帰る準備をしてくれ。送るよ」


 「ありがとうございます。神崎君」


 「いいの?」


 「ああ、もう暗いからな。ここで解散とかやると俺が心配になる」


 「ふふっ、お母さんみたいですね」


 「やめてくれ。言ってて自分でも思ったから」


 テレビを消して使ったコントロールを片付ける。


 「神崎君、また来てもいいですか?」


 「ああ、いつでも来な」


 意図せず決め台詞みたいな言い方をしてしまった。そして、それを見逃す宮野さんではなかった。


 「ちょ、ちょっと。神ちゃん、一回真似してみて?」


 ちょっと俺も思ったよ。そういえば、なんとなくそんな感じだったなって。


 やりたくなかったが、宮野さんのキラキラとした瞳に俺はまたやられて、さっきより少しだけ声のトーンを上げて言う。


 「三十秒で支度しな!」


 「意外と……似てますね」


 「ね!神ちゃんの持ちネタだ」


 あ~もう、モノマネはいいから!!

 早く支度しなさい美少女二人!!


 といっても、二人の荷物なんてそう多くない。俺がコートを羽織っている間に、支度が終わるくらいに少ない。


 「……よし、忘れ物はないか?」


 「なーし」「ないです」


 「しゅっぱーつ」


 「おー」「お、おー」


 

 

 二人を送り家に帰ってきたときには、八時を過ぎていた。手を洗いキッチンに立って少し考える。ご飯……作るのは面倒だな。ま、カップ麺でいっか。

 

 



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