第52話

 「一ノ瀬さん、どうにか断ってくれない?」


 俺から言ってものらりくらりと逃げられることが目に見えている。けれど、一ノ瀬さんからならもしかしたら……。


 「すみませんが、私では無理です。田中先生と約束を交わしたのは会長です。断るには、神崎君が田中先生に直接話をするしかないです」


 「だよなぁ」


 わざとらしく休み時間の終わりに俺に会いに来たときに、選挙当日に何かしら仕掛けてくる前振りだと思って警戒していたけど、まさか手元に置いておくほうを優先してくるとは。


 知らぬ間にやられていた。いや、知っていたとしても俺に出来ることなんてゼロに等しかっただろう。


 「ねぇねぇ。それってさ神ちゃんが同意してないなら、あの堅物の田中先生が認めないんじゃないの?」


 確かに宮野さんが言っていることは正しい。けど、それは俺がその場にいたらの話だ。


 「先生と契約をしたのは会長で俺は一切関わってないんだよ」


 「あ、なるほど。つまりー、神ちゃんが何を言っても無駄なのかぁ」


 ポンと手を合わせて納得したように頷い宮野さん。


 「そういうこと」


 田中先生は約束は守る人間だ。けれど融通が利かないわけじゃないし、契約を交わした会長本人がデメリットなしで俺の様な問題児を見てくれるというのなら、それを飲まない理由がない。 


 「はぁ。考えても仕方ない……か」


 先に手を打たれた以上、どうしようもない。一ノ瀬さんが言ったように、田中先生に直談判するという手もあるが、多分無駄足に終わる。


 「すみません。会長が自由人なせいで」


 「一ノ瀬さんは悪くないから。……はぁ~」


 一ノ瀬さんは悪くない。悪いのは全部、あの性悪生徒会長なんだ。


 「二人とも暗いよぉ。気分が沈んでるよぉ」


 宮野さん……。


 「今はさ、神ちゃんが言ったようにうだうだ考えても仕方ないんでしょ。だったら、折角三人もいるんだし気分転換にさぁ、テレビゲームしようよ?」


 「ゲーム……。いいですね!!」


 その一言で沈んだ空気が一転した。


 ぱぁと笑顔になりキラキラと目を輝かせる一ノ瀬さん。同じくキラキラとした目で俺を見る宮野さん。そして、キラキラ二人組の可愛さにやられたチョロ崎君。


 「……そうだな。やろうか、ゲーム」


 「三人いるし、この友情崩壊待ったなしのすごろくゲーム……やろっか」


 「待て、考え直せ宮野さん。それはホントに友情が壊れかねないから」


 「ふふん。ぼこぼこにしてあげます」


 えっ?一ノ瀬さん!?さっきまでとキャラ違くない?


 「威勢がいいねぇ、あおっち。いつまで持つかな?」


 宮野さんも敵キャラみたいになってるし。君たち早いよ……まだ起動してすらいないのに。


 とはいえ、俺だけ言わないのも何だか違う気がするし……。


 「二人まとめてかかってきな!!」


 「ははっ、神ちゃんもノッてきたねぇ」


 二人がソファに座り、俺が二人の前で床に座り胡坐を掻いているフォーメーション。全員がテレビに視線を向けて準備万端。


 午後四時五十分。


 俺たち三人の友情崩壊待ったなしのすごろくゲームが始まってしまったのだった。


  


 


 

 



 


 

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