第50話
天野さんと別れて家に帰ってきた。ちなみに囲まれていた時に天野さんが聞かされてたのは、俺の悪い噂の数々らしい。どうにか否定しても全く聞いてもらえず、嫌になっていたところに俺が来たそうだ。
俺タイミング完璧だなと一人思いながらドアの鍵を開ける。
……あれ?下の鍵が閉まってない。朝閉めるの忘れてたっけ?
ガチャとドアを開けると玄関に見慣れない靴が一つ置かれていた。
はぁ~、何でまた来てるんだ。
「母さん。この前来たばっかだろ?」
母さんはリビングで我が家のようにくつろいでいた。
「弘人、帰ったのね。渡したいものがあってきたのよ」
「そんなの送ってくれればいいだろ?なんでわざわざ……」
そう愚痴はこぼすけど理由は大体わかっている。ここが母さんの働いている会社からそれなりに近いからだ。
「会社から近いからよ。はい、これ」
結構重たい紙袋を手渡される。袋を広げて中身を確認すると、
「もういいって。野菜とか貰っても俺料理しないから」
「そう?でもあなた宮野さんがいるじゃない。彼女に作ってもらったりしないの?」
「彼女じゃないって」
「あって困ることはないでしょう。受け取りなさい」
相変わらず強引だな。というか買ってきたのか?
「買ってないわよ。近所の人に頂いたの。私たち二人じゃ食べ切れないから持ってきたのよ」
エスパーが。人の心を読む前に事前に連絡を寄こせってんだ。
「そういことなら受け取る。料理はしないけど」
「……その割に調理器具を使っているみたいだけど?」
キッチンのほうを見ながら母さんが言う。そうだった。天野さんが朝ご飯を作るときに使ってるんだった。
「ふーん。どうやら関係は上手くいっているようね」
「勘違いすんな!俺が使ってるだけだ」
「あなた、料理しないって言ったじゃない……」
やばい、さっきの自分の発言で首を絞めている。
「今日はしたんだよ」
フッと母さんは意味深に笑って、
「変わらず嘘を吐くのは下手ってことにしてるのね」
「…………」
「まぁいいわ。それを渡すついでに様子を見に来ただけだから」
そう言ってリビングから出ていく母さん。素直に玄関に向かっていくのを見ると、どうやら本当にこれを渡すためだけに来たらしい。
一応見送るか……。そう思い玄関に向かおうとしたら、ピンポーンとインターホンが鳴った。玄関に向かおうとした体を反転させてリビングに戻る。見ると画面には一ノ瀬さんと宮野さんが映っていた。ボタンを押して事情を尋ねる。
「どうした?」
「神ちゃん。いきなりごめんね。あおっちが神ちゃんに話があるみたいで」
話?……生徒会のことか。お節介な母さんも帰るし、家で聞けばいいか。
「わかった。今開ける」
そういってエントランスのドアを開ける。ブツッと切れた音がしてから、鍵を開けっぱなしにしておこうと思い玄関に向かう。
「何か頼んだの?」
どうやらインターホンの音が聞こえていたようだ。
「友達が来るんだよ。ほら、帰った帰った」
しっしっと手を振る。
「そう、その辺のことにあまり口出しはしないけど、学校にはちゃんと行きなさい。次、私が呼び出されたら一人暮らしはやめさせるわよ」
「わかってる。ちゃんと覚えてるよ」
「そう、ならいいわ。それと彼女さんと仲良くね?」
「何回も言うけど彼女じゃな……」
そう言って母さんがドアを開けた後、ポンとエレベーターが到着した音がした。ドアから顔を出しエレベーターのほうを見ると、ちょうど一ノ瀬さんと宮野さんが出てきた。
……やらかした。少しだけ待ってもらえばよかったと後悔するが、もう遅い。
「あら、宮野さんじゃない」
「神ちゃんのお母さん!こんにちは」
「ええ、こんにちは。後ろの子は……」
「一ノ瀬葵です。弘人君にはいつもお世話になっています」
一度しか会っていないはずなのに物怖じしないで挨拶する宮野さんと、慣れた様子で自己紹介をしてお辞儀をする一ノ瀬さん。二人を見た母さんの視線は俺に向く。
「一ノ瀬さんね。……いいかしら弘人」
「頼むから帰ってくれ」
「少しだけよ」
宮野さんと一ノ瀬さんを待たせるのは悪いので先に家に入っててもらう。まさかドアの前で説教食らう日が来るとはな。どんなことを言われるのかと覚悟していると、
「…………二股はよくないわよ?」
「してねぇよ!?」
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