第48話

 放課後、場所は体育館。


 俺は今舞台に立って天野さんの後ろで演説を聞いている。そして目に映るのは天野さんの後ろ姿ではなく、何故かパイプ椅子に座って演説を聞いている先生方だ。


 特に天野さんから何も聞いていないから、ただ様子を見に来ただけなのか?……それにしては、先生の人数が多い気がする。交代するときに天野さんにこっそり聞いておくか。


 それまでに誰が来ているのか把握しておくかな。えーっと。志藤先生、田中先生、教務主任の遠藤先生に教頭……っと、校長!?


 絶対何かあるってこれ。ただ見に来ただけにしては顔ぶれが豪華すぎる。


 「ご清聴ありがとうございました」


 天野さんの演説が終わり俺の出番が回ってくる。取り敢えず確認を。


 「天野さん、何で先生方がいるのか知ってる?」


 「あっ、そういえば話していませんでした」


 そうか。ポンコツ天野さんもかわいい……けど、今は事情を聞きたい。


 「先生方は選挙に出るのに相応しいかを見て審査するために来ています」


 まじかよ……。じゃあもし原稿持ってきてなかったら、ここで落ちていた可能性だってあったわけだ。あまりの恐ろしさにゾッとした。


 「すみません。伝えていなかった私のミスです」


 「いや、いいよ。結果的に支障はないし」


 そう伝えて、演台の前に立つ。


 ほうれん草って大切だね。いや、報連相な?とどうでも良すぎる一人ノリツッコミで軽く緊張をほぐす。一礼をしてから一歩前へ。


 さぁて、先生方に天野さんの良さをアピールするとしようか!




 「つっかれたぁぁ」


 「お疲れさま。本当にごめんね」


 「いいよ、上手くいっただろ?」


 「それはそうだけど……」


 人間誰にでもミスはあるからな。たまたまそれが今回だったってだけだ。


 「っと、そうだ」


 「なに?」


 「自転車取りに行ってくる」


 「えっ?じ、自転車?でも、朝は歩きで」


 「この前のデートの時に校門におきっぱにしてたんだ。長引くかもしれないから先に帰ってていいぞ」


 天野さんと体育館で別れて生徒指導室へ向かう。田中先生が体育館にいたけど、さすがに審査の邪魔はできない。


 天野さんに聞いたがこの審査は毎回やっていることらしい。名目上審査ってだけで生徒の演説のおかしいところを直すのが目的だったそうだ。しかし、今年は異様に立候補の人数が多いので、人数を絞るためにやっているらしい。


 先生方も大変だなと思う。まぁ、俺は圧倒的に迷惑を掛けている人間なわけだが。


 水曜日までは絶対に遅刻はないから、許して…………無理だな。今までが酷すぎるからなぁ。やっぱ宮野さんに嫁……は言い過ぎだから通い妻になってもらってどうにかするしか。


 さて、そんなどうしようもないことを考えていたら生徒指導室に着いた。誰がいるか予想しながらドアをノックする。ドアを開け自身の名前等と要件を伝える。


 「あの自転車は神崎のだったのか」


 「はは、すみません。置いたままにしてしまって」


 「次はないぞ?……ついてこい。こっちで保管している」


 対応してくれたのは、生徒指導室で俺があまり関わったことがない杉田先生だった。予想では高崎先生が出てくると思っていたんだけど。


 予想していた先生とは違ったが、杉田先生が丁寧に対応してくれて無事自転車は帰ってきた。帰っては来たが明日以降も天野さんと登校するなら、こいつにお世話になるのは木曜日以降だろう。


 先生に感謝を伝えたのち校門まで自転車を押して歩いていく。校門には何故か男子生徒数人が溜まっていた。


 なんだ?


 まだ、距離があるので見えにくい。誰かを中心に囲むように集まってるな。いじめか?いや、この学校でそういった話はもう無いはず……。


 ま、通り過ぎるときに見ればいいか。


 カラカラと音を鳴らしながら校門に近づいていく。近づくたびに段々中心にいる人物のシルエットがわかって……こない。中心の人物は周りの男子より背が低いのだろう。気になるという好奇心に身を任せ、歩くペースを上げる。


 そしてついに中心の人物が見える位置に来た。


 「え、天野さん!?」


 「神崎君!」


 俺の名前を呼んで天野さんが駆け寄ってくる。と同時チッと舌打ちの音が聞こえた。どうやらナンパの最中だったらしい。


 「邪魔して悪かったな。でも女の子一人に多人数で迫るのはどうかと思うぞ?」

 

 「黙れ、二股クソ野郎!」


 「グフゥッ」


 おそらく集団のリーダー格であろう男の言葉が俺にクリティカルヒットした。





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夜投稿もう少し続きます。あと、多分きっとおそらく明日ヤンデレ姉妹の続き投稿します。

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