第47話
生徒会室に着いた俺はドアに手を掛ける。開いていないかと思っていたが、予想に反してガラガラとドアが開いた。
生徒会室の中には定位置に姿勢よく座って弁当を食べている天野さんがいた。
「神崎君、早かったね」
「待ってたのか……。遅くなって悪かった」
「事前にわかっていたことだから。それにしても、神崎君は先生によく呼び出されてるよね。今日はどうして?」
「朝教室の前で固まっていたところを先生に目撃されて、追加課題の刑を言い渡されただけだ」
「えっと、どういうこと?」
「言ったことそのままだ」
首を傾げて黙り込む天野さん。ホントにそのままなんだ。そして、考えるだけ無駄なことなんだ。っと俺も黙って思いながら、ふと天野さんの手元を見て気付いた。
あ、……呼び出されてたから購買行くの忘れてた。今から行っても既に売り切れているだろうし。はぁ~、昼飯抜きかぁ。午後からキッツいなぁ。
「そうそう。神崎君」
昼飯がないことが確定してしょんぼりしている俺を、考え事が終わったのか天野さんが少し急かすように呼んできた。
「これこれ。私のと一緒に持ってきてて。これを渡そうと思って待ってたんだよ」
目の前に布に包まれた四角い何かが差し出される。
「これは?」
「えっ?あー、お弁当だよ。私が作るって約束してたでしょ?」
……していた。助かったぁ。これで午後からも頑張れるぞ。しかも天野さんのお手製の弁当。元気百倍。僕……っと、これはまずいか。
「……天野さんありがとう」
そう感謝を述べると、昼食があるという嬉しさからか意図せず涙が出てくる。
「そんな大げさな」
「ホントに嬉しいんだ。これは一生大切にする」
「食べてもらわないと困るんだけどね」
「ありがとう。ありがとう」
「感謝は十分伝わったから。食べて食べて」
天野さんに感謝しながら弁当を頂く。涙ながら昼食を食べる俺を天野さんが微笑ましい表情で見ていた。
「ありがとう、美味かった」
「うんうん!私も見ていて気持ちのいい食べっぷりだったよ。作った甲斐があるね」
昼食を食べ終わった頃には、休み時間の終わりが近くなっていた。昼食を食べ終わり一息ついていると。
「もう、昼休み終わっちゃうんだ」
壁に掛けてある時計を見ながら天野さんが残念そうに言う。それが俺には少し意外な言動だと思えた。
「天野さんでも休みは嬉しいんだ?」
「それはもちろん。私だって人間だよ?」
「そうだな。でも、天野さんにそういうイメージ湧かないんだよ」
「人間ぽくないってこと!?」
「俺からしたら今は天使だからね」
「…………揶揄ってる?」
「微塵も」
ジーと天野さんが視線を向けてくる。それから逃げるように顔を逸らす。ちょっとは揶揄っていたからだ。
「意地悪だね、神崎君」
「……バレたか」
「バレるよ。わかりやすいから神崎君」
なんでだろうな。俺はバレないようにポーカーフェイスをしているつもりなんだけど……。皆して分かりやすいって言うんだよな。それに、俺の顔って結構怖いって言われてたはずなんだけど、今は誰もそんなこと言わないし。もしかして俺が知らないうちに顔が変わったのか?やっぱりアンパ……やめておこう。
「そろそろ戻ろう、また走るのは嫌だしね」
「わかった。ありがとうな弁当」
「いえいえ。……そうだ、今日も練習あるから放課後体育館に来てね?」
「了解」
「ちゃんと原稿書いてきた?」
「ああ。さすがにアドリブで本番は自信がない」
「うん、ならよし!」
天野さんが立ち上がり、入り口のほうへ行くのに俺も付いて行く。
「それじゃあ、放課後に」
「うん」
ドアの前で軽いやり取りをした後、天野さんは鍵を返すために職員室のほうへ歩いて行った。俺は空になった弁当箱を手に教室に戻った。
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