第44話

 天野さんに起こされる朝。朝食を共にして、登校までの時間を適当に潰して二人並んで家を出る。そんな健全な男子高校生なら誰しも最高といえるだろう月曜日の朝。


 しかし、俺の気分は最悪であった。なぜなら学校に着いた瞬間、いやその前から好奇の視線に晒されることを知っているからだ。宮野さんが言っていた通り、噂は広まっているだろう。対策というか上書きの策はあるが、昨日改めてじっくり考えたところあまり効果があると思えない。


 だからと言って別の策が思いついたわけでもなく、昨日は何もなく一日が終わってしまった。


 三十分ほど歩くと学校が見えてきて、周りに同じ制服姿の通行人が増えてくると同時にやはり視線が突き刺さってくる。この前の時と同じだな。この嫌悪と好奇心の混じった嫌な視線。


 天野さんはそういった視線に慣れているのだろう。あまり気にした様子はなく、俺が見ていることに気付きこちらを見て微笑んでくる。

 

 「どうかしたの?」


 「……なんでも」


 気にしていないのではなく、鈍感なだけかもしれない。あと、そんな自然な笑顔を振りまかないでほしいな。周りからの殺意の籠った視線が怖いんだけど。


 しかし天野さんが隣にいるからか校門で囲まれることはなく、とりあえず教室まではスムーズに行けそうだった。そして教室まであと数歩のところで俺の足が止まる。

 何だか自分の足が岩のように重いなぁ。

 まさか、気持ちがここまで体に影響を及ぼすとは……。どうやら病は気から、というのはあながち間違いではないようだ。


 通り過ぎていく他生徒から奇妙な目で見られているだろうが、そんなことは気にしてられない。……帰りてぇ。教室のドアの目の前まで来て、そんな気持ちが湧き上がってくる。


 今なら帰れる。まだ、間に合う。今すぐ回れ右して校門から出ていけば面倒ごとは避けられる。そうだ、帰るべきだ。


 俺の働いてない頭が訳のわからないことを考えている。結局次の日来たら問い詰められるだろうから、状況は帰ったところで大して変わらない。


 が、面倒ごとが嫌いな俺は回れ右をしようとして……。


 「神崎、なんでドアの前で止まってるんだ?」


 おおっと、まさかのティーチャー登場!!もし、この状況で「帰ろうとしてました」なんて言おうものなら、どんな罰を食らうかわかったものじゃない。ここは誤魔化すしか……。


 「ははは。何ですか先生。ちょっと足が竦んでいただけですよ」


 「そうかそうか。では何故キレイに回れ右をしようとしていたんだ?まるで、卒業式に出席しているかのようにキビキビとしていたが?」


 一体どこから見ていたんだ。それ次第では言い訳が通じなくなる。……というかもう無理では?


 「いえ、それはですね……ははは」


 しかーし、こういう時の俺は諦めが悪いのだ。最後の最後まで足掻いてやるさ。


 「なぜ誤魔化す?早く答えたまえ。もうじきチャイムも鳴る」


 「そ、卒業式の練習を……」


 「そうか、結構だ。昼休みに職員室に来なさい」


 終わった。なんだ今の訳の分からない言い訳は。先生が言ったことをそのまま言い訳に使うとか、ちょっと……いや、かなり馬鹿だ。

 何だよ、卒業式の練習って。三年ならわかるが、まだ二年だぞ?俺は。……三年でもやらないなドアの前で回れ右の練習なんて。


 「おい神崎。早く入れ、遅刻扱いにするぞ?」


 教室に入っていった佐藤先生がドアから顔を出し、そんな脅しをしてくる。俺は逃げるという選択を失い、従うしか選択肢がないためトボトボと教室に入った。






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先生の名前が違っていました。すみませんm(_ _)m

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