第43話

 「日が傾いてきたけど、どうする?帰るか?」


 映画の視聴も終わり、空模様も時間的にも夕方だ。宮野さんの親に心配を掛けないために、暗くなる前に帰ったほうがいいだろう。そう思って声を掛けたんだけど……。


 「神ちゃん次第だよ。まだ、居てもいいなら居させてほしいかな」


 一回泊ったからって俺に対する警戒心を解き過ぎじゃないですかね、宮野さんや。俺も男の端くれなんですけど?普通に襲いますけど?


 「親が心配するぞ?」


 「しないよ。友達の家に遊びに行くって言ってあるから。私、そういうときは帰るのが遅くなるのが当たり前になってるから」


 そっかー。……なんか触れづらいなぁ。


 「居るのはいいんだけどさ」


 「うん」


 「警戒心は持っといてくれよ、頼むから」


 「持ってるよ?」


 持ってないよ?!?!

 

 持ってる奴は、男の足の間に座ったり、そのまま向き合って「愛してるゲーム」なんてしない!!

 ……え?しないよね?


 「……ああー、そういうこと。大丈夫だよー、神ちゃんだし」


 何を根拠にこの娘は。やはり一回わからせる必要があるのか?俺がスーパー健全な男子高校生だと。


 「この前も話したけど、俺男だからな?!普通に欲情するんだからな?!」


 まさかの会話によるわからせ(説得)である。


 「それは友達の前で堂々と話すことじゃないと思うけど……。それにそれくらい知ってるよ?私」


 当たり前すぎることを言われた。


 けど宮野さん、本当に知ってるのだとしたら元がバグってるよ。……よし。おーい、運営さーん。この娘の警戒心のパーツが壊れちゃってるんで大至急交換で。


 「ムム。とっても失礼なことを考えてない?」


 「考えてない。俺が正常」


 「うーん。ホントかなぁ」


 じりじりと迫ってくる宮野さん。同じソファに座ってるからただでさえ距離が近いのに、そこからさらに近づいてくる。こういう所が警戒心がないって言ってるんだけど、俺。


 「よーし。決めたぞ俺は」


 「何を?」


 「宮野さん!」


 「はい!」


 あらまぁ、元気がいい返事だこと。


 「帰りなさい」


 「えー」


 あらっ、元気のない返事だこと。


 「えーじゃない。俺の理性がぶっ飛ぶ前に帰りなさい!」


 「むー」


 何かが気に入らないようで、膨れっ面をしてくる宮野さん。


 「そんな可愛い顔してもダメ!……また来てもいいから」


 「やたー!約束ね?」


 切り替えはっや!先輩に甘えるのが上手い後輩女子かよ。……どんどん属性が増えるな宮野さん。あと顔が近い、早く離れなさい!理性という名の風船が飛んでっちゃうから。


 グイグイと手を使わないソファ上での押し合いを何とか制した俺は、上着を着て宮野さんを送る準備をする。


 「それじゃあ、お邪魔しました」


 「ああ」


 外に出るとちょうど夕暮れ時という空色で、そこそこの肌寒さが襲ってくる。今の俺にとっては嬉しいくらい冷たい風だ。オーバーヒート寸前だった頭が冷えていく。


 隣を歩く宮野さんは、約束を取り付けたからなのか上機嫌で鼻歌を小さく歌いながら歩いている。


 ふと思う。俺の中の宮野さんのイメージが段々ぶれてきていると。嫁→彼女→後輩系女子。凄い変化だ。いや、退化だな。これだと遠ざかっていっている。普通なら矢印が逆だ。


 「♪~。♬~♪~」


 俺のくだらない考え事を打ち切るように、宮野さんの鼻歌が耳にスッと入ってくる。考えていることが急に消えたせいか、頭が空っぽになる。

 

 すると……。


 「「♬~。♬~♬~」」


 気付いた時には、宮野さんに合わせるように鼻歌を歌っていた。宮野さんの少し高い音と俺の低い音が混ざって心地がいい。


 俺たち二人は、宮野さんの家までお互いが知っているだろう曲を片方が歌いだし、もう片方がそれに合わせ鼻歌を歌うことを繰り返しながら歩いた。


 ちなみに、俺達二人の鼻歌は宮野さんの家まで一回も途切れることはなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 属性がどんどん増えていく宮野さん……。

 そのうち一人で大体の属性をカバーしてそう。

 


 明日は投稿お休みするかもです。m(_ _)m

 

 


 

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