第42話

 宮野さんとの愛してるゲーム(ゲームになってない)を終えて、俺達はテレビ映画を見ながらポテチを摘んでいた。


 宮野さんの目的はどうやら俺の家でテレビゲームをすることではなく、ただただのんびりすることのようだ。


 パリパリとポテチを摘まみながらぼんやりと映画を眺める宮野さん。俺はその横顔をチラッと見て思う。俺らは休日の夫婦か……と。


 あの恥ずかし過ぎるゲームをした後にしては気まずくないし、程よい距離感で各々くつろいで映画を見るだけの休日。あまりにも熟年夫婦の様だ。少なくとも同世代の友達とこんなにも穏やかな時間はなかなか過ごせないだろう。


 「…………」


 宮野さんは映画に集中しているようで、先ほどからずっと無言だ。俺はというと、映画よりも隣にいる宮野さんを見ている時間のほうが長いかもしれない。


 ま、何回か見たことある映画だし仕方ない仕方ない。


 そんな言い訳を心の中で誰に対するでもなくしておく。


 また、チラッと宮野さんのほうに視線を向けると宮野さんと視線がばっちり合った。しばし、お互い固まり互いに視線を戻す。


 映画に視線を戻した後は沈黙が続くと思ったが。


 「神ちゃんは……」


 そこで言って宮野さんの口が止まる。


 「なに?」


 さすがにそこで止められると気になるので、応答してみる。


 「天野ちゃんとあおっち、どっちと付き合ってるの?」


 そしたら、聞いたのを後悔するくらいの爆弾が穏やかな空間に投下された。


 「?????????????」


 何をいきなり聞いてきているんだ?!付き合ってる?俺が?


 一体どこから流れた噂を聞いたんだ、宮野さん。


 「待ってくれ、まず前提から違う」


 「違うって?」


 「俺は誰とも付き合ってない。独り身だ」


 「うん」


 「そして天野さんも一ノ瀬さんも友達だ」


 「……うん」


 「いいか?もう一度言うぞ?俺は独り身だ!!」


 「…………」


 あっれー?すごく疑われてる気がするなー。やめて欲しいなそのジト目。


 「真実だぞ。これが」


 念を押すと宮野さんが引き下がる。


 「そっか。なら、やっぱり噂は噂だね」


 「噂……」


 さっきは冗談で噂の事を考えたけど、本当に流れてるのか変な噂が。だとしたらまずいな、どんな噂にしろ早めに対処しないと。


 「うん。まぁ、そんな気はしてたから今のは確認ってことで」


 「悪い宮野さん。その噂どんなのだったか覚えてる?」


 「ええっと。神崎君が二股してるクソ野郎って噂」


 「クソ野郎なんて汚い言葉を使ってはいけません!!」


 「……そこ?」


 「いや違うんだ、つい癖で。……というか、二股なんてしてないんだけど、それどころか彼女すらいない身ですけど?!」


 「情緒不安定だね、神ちゃん……」


 「クッソ、何が悲しくて独り身なのに美少女二人と付き合ってるとかいう羨ま……ゲフンゲフン。けしからん噂を流されなきゃならんのだ」


 「でも、天野ちゃんに関しては神ちゃんも悪いと思うけど……」


 「なんでだ?!」


 「だって校門で膝ついて、天野ちゃんの手を取ってたから」


 ぐっはぁ。しっかり見られてる。しかも、あれは言い逃れが出来ねぇ!いや、頭をフル回転させて考えろ俺。そうすれば何か……。


 「あれ、結構な人に見られてたよ?」

 

 「ははは、終わりだ……」


 ……あれ?だとしたら何で昨日誰もそのことを言及しに来なかったんだ?そういう噂は当人に直接聞いて確かめることがほとんどだろうし。否定しても意味がないのが辛いけど。


 聞いてみるか、クラスのほとんどの人と仲がいい宮野さんに。


 「そんな噂があったのに、何で昨日誰も俺のところに聞きに来なかったんだ?」


 「昨日の段階では、そこまで広まってなかったからだと思うよ?天野ちゃんとのことは結構な人が見てたけど、相手が神ちゃんだったからね。そこまで気にしなかったんじゃないかな。とはいっても、休み明けには広まってるだろうけど」


 なるほどねー。休み明けにコロコロされちゃう奴ですねぇ、わかります俺。わかりたくないのに!


 選挙も近いってのに別の問題が出てきたのは想定外だな。いやまぁ、大半が俺の馬鹿な行動のせいだけど……。どうしたものかなー。


 …………ああ、一ついい手があるな。


 「ついに公表する時が来た、というやつか」


 「ん?」


 「フハ、フハハ。悪いな林。付き合ってもらうぞ?」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あまりにも夫婦。

 神崎君はどんな悪いことを考えついたのか……。

 

コメントをくださった方々ありがとうございます。

執筆の励みになります。m(_ _)m


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る