第41話

 土曜日。それは俺にとって掛け替えのないもの。


 そんな土曜日に俺は、一体何をしているのだろうか。


 答えは、ゲームである。


 「神ちゃん強いねぇ」


 「はっはっは」


 胡坐をかいてソファに座りテレビのレースゲームで宮野さんと対戦している俺。


 しかーし、俺の足の間には何故か宮野さんが居座っている。


 ???


 おっかしいなぁ。ゲームを始めたときは離れていたはずなのに、宮野さんが途中で水を取りに行った後何故か俺の足の間にフィットしてしまったのだ。


 やりずれぇ……。宮野さんは小柄なので別に画面が見にくいとかはないが、髪からすごくいい匂いがしてプレイに集中できん!!


 「神ちゃんは普段から結構ゲームする?」


 「テレビゲームはあんまり。スマホではやってるよ」


 「そっかー。じゃあそこまでの差は無いはずなんだけどなー」


 そう言いながら体が傾く宮野さん。どうやら宮野さんはこういうゲームだと体も一緒に動いてしまうタイプらしい。可愛いけど目の前でやられると匂いが……。


 俺は終始宮野さんの髪の匂いにやられている。マジえぐい。いい匂い過ぎて何回も自分から髪に顔を近づけそうになったし。


 「また負けたー」


 「まだまだだな、宮野さん」


 「うぐっ。何だかやられっぱなしな感じがする」


 実際このゲームでは、ほとんど俺が勝っているからな。


 「ゲーム変えるか?」


 「そうだね。デジタルは止めて、今度はアナログな遊びをしようか」

 

 アナログな遊びって。テレビゲームがしたくて家に来たんじゃないのか?ま、宮野さんが良いなら俺はいいけど。


 「神ちゃんってさ」


 クルッと宮野さんが足の間で器用に回り、俺のほうを向く。宮野さんのほうが小さいので、自然となる上目遣いを俺は食らっている。ジッとこっちを見ながら宮野さんが質問してくる。


 「ん?」


 「しっかり照れることある?」


 しっかり照れるって何だよ。……そりゃあ、俺も人間だから照れることくらい全然あるだろうけど。


 「照れることは誰にでもあるだろ」


 「私が見たことないから」


 ゾクッと背筋に悪寒がする。前の時は少し違うけど、嫌な感じがした。


 「だからさ、少し前に友達の間で流行ってた「愛してるゲーム」やろっか」


 「……はい?」


 あの……お互いに愛してるってキメ顔で言いあう恥ずかし過ぎるゲームですか?


 「今の返事、了承ってことでいいかな」


 駄目ですよ。宮野さん早とちりは。


 「いやいやいやいや。待ってくれ。確実に恥ずかしくなるから。絶対ゲームが終わったら気まずくなるから。やめよう?な?」


 「私はならないからいいよ」


 何で断言できるんだよ、この娘……。


 途端にスッと顔を、俺の耳元に少しだけ寄せてくる宮野さん。


 「…………愛してるよ?神ちゃん」


 グハッ(吐血)。


 上目遣いから放たれる且つ不意打ちの耳元での「愛してる」に俺は一気にライフを削りきられた。


 「負けました」


 「え?」


 あまりに早すぎる俺の降参宣言に、宮野さんが驚く。


 だって無理だ。足の間に何故かいるし、上目遣いしてくるし、愛称で呼んでくれるし、ちょっと宮野さんも照れてたし。勝てる要素があまりになさ過ぎて即降参した。


 「なーんか、勝ったのはいいんだけど……釈然としないなぁ」


 「ははは。俺は心臓が破裂しないか心配だよ」


 たった一言で心拍数が爆上がりしたのだ。もう一回食らったら……。昨日もこんなことあったな。


 「うーん、よし!」


 いきなりどうした宮野さん。


 「勝敗はいいからさ、一回私に愛してるって言ってみてくれない?」


 「勝敗はいいのに?」


 「うん。私だけ言うってのも不公平だしー」


 そう言われるとそんな気がしてしまうのが俺だ。

 仕方ない。こういうのは早く終わらせたほうが楽なのだ。


 「わかった。いくぞ」


 「うん」


 「…………」


 いざ言うってなると、やっぱり恥ずいな。


 「あ…愛してる」


 「あ、照れたね?今」


 それが見たいがためだけにやらせたのか?!






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 世間がバレンタインで賑わう中、私は「愛してるゲーム」で対抗しようと思いました。宮野さんが強すぎてゲームになりませんでしたが……。




 

 

 

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