第39話

 「私の後に神崎君の順だから、神崎君は当日私の演説が終わるまで舞台の横で待機になると思う。それで今日はほとんど聞くだけになっちゃうけど……それでいい?」


 「いいよ。最後にそこに立たせてもらえれば当日のイメージは掴めるだろうし」


 「わかった。じゃあ始めるね」


 誰もいない体育館。本番と違い緊張も何もないが、きっと天野さんはイメージしている。ここに全校生徒が居る様子を頭の中で。大きく息を吸う天野さん。始まるな、ここからは俺も聞き逃せない。これが俺の話す内容に関わってくるのだから。


 「私は……」


 スピーカーから透き通った声が聞こえてくる、もちろん天野さんの声だ。ここ二日間聞いていたけれど、改めて綺麗な声だと思う。


 「まず、一つ目に……」


 そして無難な演説だ、とも思う。まぁ、今の生徒会のメンバーは余程変なことをしなければ大丈夫だろうし、これくらいでいいのだろう。


 それに天野さんは、自身がどこに立候補するのか、その理由、これまで培ってきたことをどう活かすのかを簡潔に話せている。


 こういうのは簡潔さが大切だ。いかに選挙だといえど学校の中のものだ、興味がない奴だってもちろん一定数居る。そいつらは長い演説なんて聞かない。そういう奴らを味方につけることが出来るのは短く、簡潔にまとまっている演説だ。


 長すぎると内容が頭に残らないしな……。


 「以上より私は……」


 お、もうそろそろ終わりか。


 「ふぅ。どうでした?」


 「いいと思うよ。短くまとまっている所が特に」


 「そっか、よかった。それで、神崎君の話す内容はどう?書けそう?」


 「多分ね。ま、何とかするよ」


 「そんなに頼もしかったっけ?神崎君って」


 「何を言ってやがりますか、天野さんや。俺が頼もしくないことなんてなかったでしょうに」


 「うーん。……確かにこの二日間は頼もしかったかな?」


 ありゃ?案外肯定されちゃうもんなんだ?結構えぐめの否定が飛んできて、俺の心が粉々になると思ってたんだけど……。


 「よし。まだ時間あるから、もう一回通してやっちゃうね」


 「ういー」


 少しだけ休憩を挟んだ後、天野さんの練習が再開された。




 「バイバイ、神崎君。また、月曜日に」


 「ああ、またな」


 天野さんの後にも練習する人がいるらしく あの後三回ほど練習を繰り返して俺たちは帰ってきた。まだ明るいが帰り道が同じなので天野さんを送ってから、家のほうへ向かう。


 いつも通り目印の公園が見えてきたとき、マンションの前で誰かが立っていることに気付いた。


 同じ学校の制服だ。今まで見たことなかったけど、ここに住んでいるのだろうか?


 でも、そこで止まっているということはここの住人じゃないな。住人なら止まってる必要ないし。


 警戒心を少し抱きながら、近づいていくと……。


 とても見覚えのある顔がそこに立っていた。


 「え?宮野さん?!」


 俺が驚いた声を上げると、宮野さんがこちらを向きへにゃっと笑う。


 「神ちゃん!待ってたよぉ」





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 宮野さん?!

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