第38話

 放課後。俺は体育館に来ていた。すでに天野さんは舞台の上で、準備をしていた。周りを見渡す限りまだ、一先輩は来ていないようだ。


 とりあえず、俺も舞台のほうへ行く。


 「来たぞー」


 「あ、神崎君。待ってましたよ」


 「どうやらお待たせしたみたいですみませんね」


 「そういう意味で言ったわけじゃないけど。……まだ、会長が来てないからマイクの調整は出来てないけどそれ以外の準備は万端だよ」


 クラスの解散時間にそこまでの差はないと思っていたけど、この準備状態を見ると結構な差があるのかもしれない。そうじゃないなら、天野さんも超人の一人だろう。


 「何か変なことを考えてるね。これはもともと置いてあったから」


 「…………説明ありがとう」


 もともとあったなら納得だ。というか演劇部の奴ら、演台やらは戻すのに音量は戻さずに帰ったのか……。


 「演劇部の方も疲れで忘れてたんだと思うよ」


 「天野さん、俺の顔見るの辞めようか。心と会話されてる気分になるから」


 「だって、神崎君わかりやすいし」


 わかりやすいとかの次元を超えてると俺は思いますけど?そこらへんどうなんですか?


 「仲良しだねぇ~」


 そんな声と同時にふわっと背後からハグされて、俺は固まった。


 「か、会長?!いきなり何してるんですか?」


 「神崎君をハグしてるぅ。昼に不仲って言われたから~それが間違いだって証明しよう~と思ってぇ」


 「そ、そうですか……。神崎君良かったね?」


 「ん~?天野ちゃんにもしてあげよっかぁ」


 「いえ、羨ましいとかではなくてですね。それよりも、音量調整をパパッとしちゃいましょう」


 「天野ちゃん、神崎君に影響されてるね~。いいよ。さっさとやっちゃおう~」


 ふわっと腕が離れていく。瞬間俺は呼吸を再開する。


 「ぜーはーぜーはー」


 何だあれは?!


 天国だったか?


 いや、地獄?


 ふわふわで、もちもちで、息苦しいひと時だった。……最高だったぜ!


 酸欠で頭がまだ逝ってやがる。……最高にHIGHって奴だぁ!


 俺の理性よ早く帰ってこーい。


 「はーはー。次食らったらマジで旅立ってしまう。それにしても後ろには何かと運がないな、俺は」


 「あ、復活した。ちょうどよかったよ神崎君」


 「辞めてくれ天野さん。リスキルだけは……」


 「??体育館の奥に行ってくれない?音の聞こえ具合を知りたくて」


 リスキルではないか。でも体育館を渡りきるのか。


 「わかった。どの辺に立てばいい?」


 「体育倉庫の前がいいかな。お願いね」


 わざとらしくウインクしてくる天野さん。あれ?君ってあざとい系のキャラだったっけ?ま、可愛いからいっか。


 天野さんのウインクというご褒美を先払いで貰った以上は、それに見合った働きをしないとな。




 「もう、ばっちりだ。聞こえすぎなくらいだ」


 「それは良かった。調整はこれで大丈夫。さ、練習しようか神崎君」


 「いいけど。先輩は?」


 「調整が終わったら颯爽と帰っちゃった」


 ……自由過ぎる。それに俺が舞台のほうに戻って来る前に帰ったってことは、別に一人で調整出来たってことじゃねえか。


 やっぱり関わりたくねぇ、あの先輩。

 




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 もう四十話近いのに、作中だとまだ五日しか経っていないという進みの遅さ……

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