第34話
……さ。おき……。
何だ?声が聞こえる。こっちはまだ、寝たいっての。
おきな……。かん…。
「んんー」
返事とも言えないことはない声を出し、起きていることをアピールする。声が聞こえなくなったらもう一度寝よう。
…め。もう……。
しつこいな。何でそんなに俺を起こそうとしてるんだ?
「わかった。起きるよ」
今度はしっかりとした返事をする。これなら離れてくれるだろう…。
「神崎君……本当に朝弱いんだ」
そう思ったが、俺にもしっかりと相手の声が聞こえた。そのあまりにも聞き覚えのある声に目を開ける。目の前にはエプロンをした天野さんが居る。そうか、ここは天国か……。俺はいつの間にか昇天していたのか。
「あっ、目開いた。おはよ、神崎君。約束通り起こしに来たよ」
「ああ、おはよう。……まさか、六時半か?」
「私が来たのは六時半で今は七時だよ。もうすぐご飯出来るから起こしに来たの」
そっか。起こしに来たかぁ。もう少し寝ていたいが、天野さんの手料理を逃がすわけにはいかないので、体を起こす。
「完全に起きたね。じゃあ、ご飯用意しておくから顔洗ってきてね」
そう言ってキッチンのほうに戻っていく天野さん。俺はその背を見ながら、嫁が増えたと思った。
顔を洗い、寝癖を直し、キッチンに向かう。すでにテーブルには料理が並んでいる。
俺はテーブルにあるトーストを見て、ふと思ったことを口にする
「天野さんって朝はパン派なのか?」
「そんなことないけど…。これは神崎君の家に余ってたから……」
そういえば、少し前に開けたパンをそのままにしてたっけ。それを使ってくれたのか、ありがたいな。
椅子に座り、手を合わせる。
昨日の夜と同じで天野さんが目の前にいるという感覚に違和感があるが、一度食べ始めればそんなものは消え去ってしまう。
「今日は演説の練習を少ししようと思ってるんだけど、都合悪いかな?」
今日か。用事は特にないけど……。
「問題ないけど、まだ原稿が出来てないぞ?」
「いいよ。神崎君がイメージを掴んでくれればいいから」
「りょーかい。天野さんは練習するんだろ?」
「するよ。今年は候補者が多いみたいだし」
それは君たちが原因だけどね。
生徒会なんてほとんど人気なかったのに、天野さん達が入った去年からその人気が跳ね上がったからな。今の生徒会は、もはやアイドル的存在だ。
「仕方ないよ。男の性だ」
「へ?神崎君、何か言った?」
かなり小声で呟いたつもりだったが、距離が近いからか聞こえていたようだ。別に言う必要もないので誤魔化しておく。
「いや、何にも……」
今日の日程をその後も話していく。話が弾んだせいで朝食を食べ終える頃には、登校時間がかなり迫ってきており、急いで支度をして天野さんと共に家を出た。
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