第31話

 百均を出た後、天野さんの私物を買うために次の店に向かう。


 俺はさっきと同じように、行先を知らないので天野さんの背についていく。


 「神崎君、荷物大丈夫?」


 「えっ?俺こんな軽いものも持てない非力キャラだったっけ?」


 「茶化せるってことは、余裕みたいだね」


 「余裕だよ。それよりも、次の目的地が気になってる」


 場合によっては別行動をしないといけないかもしれないからな。例えば天野さんの私服選びとかだったら、即逃げる。……センスの欠片もないからな、俺。


 「別に大したものじゃないよ?冬用の服が少し欲しくて、それを……って神崎君?」


 俺の足が止まる。体がすぐさま来た道を戻ろうと前に進むのを拒んでいる。

 天野さんが俺につられて歩みを止め、怪訝そうにこちらを見てくる。


 ……まさか、建てたフラグがこんなに早く回収されるとは思わなかったぞ。


 「天野さん、俺も買いたいものがあってさ別行動ってことで……」


 「神崎君、買いたいものは特にないって、来たときに言ってたけど……」


 過去の俺の馬鹿。ポンコツ。後先考えずに話す口軽野郎。


 「…………」


 俺が黙ったのを見ると、天野さんが出会ったときに見せた蠱惑的な表情をしている。


 「へぇー。嘘付くんですか?これから一緒に選挙に挑む仲間に」


 「天野さん……」


 「そんな悪い子には、お仕置きが必要かな?」


 あっ、その顔。多分舌なめずりが似合うな。

 そ、そんな!こんな時にも煩悩が!


 首を振り煩悩を振り払い、どうにか天野さんに縋る俺。


 「天野さん、どうか慈悲を」


 「…いいですよ。慈悲をあげます」


 お!さすが、天野さん。話が分かる人だ!


 「私の冬の服選んで下さい」


 ……良いか?神崎弘人よ、覚えておけ。慈悲などない…と。


 「俺さ、センスがないんだ」


 「柄、一緒に選んであげましょうか?」


 扇子じゃないよ、天野さん。……わかってて言ってるな。


 なんか敬語がなくなってきてから、さっき茶番もそうだけど、俺のこと揶揄うようになってきた気がするなぁ。


 取り合えず、立ち止まっているのも迷惑になるからと足を進める俺。天野さんもそれに続くように歩き始める。


 「ふふ♪一ノ瀬さんと違って、私は逃がさないよ?」


 「勘弁してくれ……。ホントに。服に関してはセンスが壊滅的なんだ」


 「それを着て選挙に出ようかな」


 「笑いものにされるぞ?!絶対やめとけ!……てか、選挙は制服だろ」


 「そうだよ。だから冗談。でも、服は選んで貰おうかな」


 そっちも冗談にしてほしい、今なら間に合うから。マジで!


 「そんなに嫌?」


 「嫌☆」


 俺なりの宮野さんオマージュ。そんなことしてる場合じゃないのに、俺はふざけてしまう。 


 しかし、それが効いたようで。


 「じゃあ選ばなくてもいいからさ、似合ってるかどうか教えて?神崎君の主観でいいから」


 「うーん、それもあんまり変わらん気がするけど……いいよ」


 あんまり変わらない気がするけど服を直接選ぶよりは良いだろう……多分。


 「ありがと。……さ、話してるうちに着いたよ」


 「ユ〇〇ロかよ」


 「私、服にそこまで拘りないし……普段使いしやすい服が好きなの」


 意外過ぎる事実。でも、元が良すぎて何でも似合うからな。


 というか服に拘りがないなら、俺が選んでも問題なかったのでは?……先言ってほしかった。言われても断るけど。


 店内に入り、服を眺める天野さんとその姿を見て想像を膨らませる俺。


 ダボっとした部屋着の天野さん……アリです!

 というか絶対かわいい。彼シャツ着て欲しい。


 コンマ数秒でそこまで想像を膨らませ、すぐさま打ち切る。


 「そうなんだ。勝手にそういうことには詳しいイメージ持ってた」


 「友達と行くと、私は着せ替え人形だから……」


 自分で選ばない、いや選ばせてもらえないのか?

 まぁ、確かにいろいろ着せて見たくなる気持ちはわかるけど。


 「嫌なのか?」


 「嫌じゃないよ。でも、精神的に疲れるかな。今日はそれがないから気が楽だよ」


 「俺の気が楽じゃないけどね」


 「それは……ごめん」


 「いや、いいよ。言ってるだけだから」


 「そっか。なら、そう思っておくよ」


 ん?なんだその含みのある言い方。


 天野さんの言い方に疑問を思っている俺を置いて、どうやら天野さんは服を決めたようだ。


 「よし、これとこれかな。……ねぇ、神崎君どっちが似合う?」


 こちらに振り向き手にした服二つを制服の前に広げ、笑顔で究極の質問をしてくる天野さん。


 俺は広げられた二つの服よりも、そのあまりにも可憐な笑顔に気を取られていた。


 


 

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