第30話

 モールに入って早々、俺は嫌な予感がしていた。


 なんとなく学校の奴に会いそうな、そんな予感。

 

 このモールは学校からそこまで遠くはない為、ここに同じ学校の奴がいることは珍しくない。


 普段ここに来ても会うことはなかったので油断していたが、隣にいるのは嫌でも目立つ美少女だ。


 行先、教えてもらっておけばよかったな。そんな後悔を今になって一人でしている俺。


 「どうしたの?頭を抱えて。やっぱり体調が悪い?」


 俺の意地悪を受け止め、ため口になった天野さんが心配そうに聞いてくる。


 「大丈夫だ。ちょっと考え事を……」


 「なんだか、それ。さっきも聞いた気がするんだけど」


 「デジャブってやつ?」


 まぁ。実際に同じようなやり取りをしたけど。


 「うーん。神崎君が大丈夫って言うならいいけど……。じゃあ、買い物しよっか」


 「ああ、何を買うか知らないけど荷物持ちくらいはするよ。」


 「そうだった、何も言ってなかったからね。えっと、今日は生徒会で使うものと、神崎君の朝ご飯用の食材と、私の私物の買い物の予定かな」


 「俺の朝飯の食材は買わなくてもいいぞ。ついこの前、親が来た時にいろいろ置いて行ったから」


 「そう?…なら、残りの二つかな。神崎君はなにか買うものないの?」


 「俺は特に」


 「そっか。よし、先に生徒会で使うものを買いに行こうか」


 そう言って、歩みを続ける天野さん。それに続きながら俺は、今の砕けた感じの天野さんやはり良いと、心中でニヤニヤしていた。


 そういえば、生徒会で使うものって何だろう…?


 この前大量に使ったコピー用紙だろうか。それとも備品関係かな。いや、案外生徒会役員が使う私的な物の可能性も……。


 「まずは、ここ」


 「おお、百均……」


 誰もが知る百円ショップに天野さんが入っていく。俺は入るときに籠を持ち、その背に続く。




 「神崎君、どれが良いと思います?」


 何種類かある、カッターを見ながら尋ねてくる天野さん。


 天野さん、俺はカッター選びでそれを言われるとは思わなかったよ。


 「その前に何でカッター?」


 「生徒会あてに色々荷物が届くことがあって、それを開けるときにあると便利だから」


 今まで無かったのか、カッター。


 「今まではどうやって開けてたんだ?」


 「カッターだよ?……ああ、ええっと。買いに来たのは、使っていたものが無くなったから」


 こちらの表情を見て察したのか、俺が聞きたかったことを全部答えてくれた。


 「優秀な人たちでも物をなくすことがあるのか」


 「雫先輩が最後に使ったときに、どこにしまったのか忘れたみたいで……」


 あぁ、一番納得できる人だ。凄い人であることに違いはないが、あのフワフワした雰囲気のせいで天然っぽく見えるからかな。


 「な〜んか、納得してない?その顔」


 「してた。なんとなく天然ぽいからさ」

 

 「んー。あの雰囲気のせいだと思うよ?先輩は別に天然って訳じゃ……いや、天然かも」


 天野さんがそう思っているなら、他の人から見てもそうなんだろう。


 敢えて周りの人にそういうイメージを持たせている。……やっぱり関わりたくないな。


 「で、でも仕事は出来る人だから」


 俺の沈黙をどう受け取ったのかは、わからないが天野さんがそんなフォローをいれる。先輩思いの後輩だぁ。こんな後輩俺も欲しい。


 「そこは疑ってない。この前一緒に作業したけど、あの人だけ一クラス分終わるのが異常に速かったから……その後さぼってたけど」


 「うん、確かに」


 それは置いておいて本題だ。まだ俺たちはカッターを選んでいない。


 「持ちやすい奴で良いんじゃないか?たくさん使うわけではないだろうが、手の負担が減るのは結構助かると思うし」


 「なら、そうしようかな」


 天野さんがカッターを籠に入れる。次に向かったのは、ボールペンなどが売っているところだ。


 書く量が多く頻繁に使うらしく、天野さんは悩むことなく十本セットの物を籠へ。


 「あとは、輪ゴムとガムテープとホッチキスの芯を、っと」


 それらを見つけ次第籠に入れていく天野さん。今更気付いたが、籠に入れるときに丁寧に入れている。ものぐさな俺とは大違いだ。


 「これで全部……。レジに行きましょう」


 天野さんが鞄からメモを取り出し、メモと籠の中身を見て確認を済ませレジに向かう俺たち。


 レジで会計を済ませ、天野さん持参の袋に詰める。


 こうして天野さんとの百均デートが終わった。






 

 

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