第29話
うーーーーーん。学校から離れたはいいけど、結局目立つのは変わらないか……。
「どうしたの?そんなに周りを見て」
様子が落ち着いた天野さんが、そんなことを聞いてくる。気づいてない?それとも、気にしないようにしているのか。
「落ち着かないんだ。さっきも言ったけど目立つの苦手でさ……」
「別に目立ってないと思いますけど……?」
あー。気づいてないタイプか。どうやら女の子が周りの目に敏感というのは、天野さんを見ていると本当かどうか怪しくなってくるな。
「いや、何でもない。それよりも、危ないぞっと」
「えっ?……きゃっ」
天野さんの肩に手を当て俺のほうに引き寄せ、通行人とぶつかるのを防ぐ。
「人通りが多いから気を付けない……って天野さん、聞いてる?」
「…………ありがとうございます」
顔を俯かせているため、顔は見れないが聞こえていたならいいか。
天野さんの肩を離し、歩き始める俺たち。
「あの、神崎君は……スキンシップが好きなんですか?」
「はっ?」
「だ、だって、校門でも膝を着いて手をいきなり差し出したり、さっきも肩を引き寄せたり、だから……そのぉ」
「ち、違う。誤解だ。それは大きな誤解だ」
やばい、誤解だとは言ったが証明できないぃぃ!でも、校門のアレは不可抗力だし、さっきのも事故を防ぐためというか、だから、違うというか。
……誰に言い訳してるんだ、俺は。天野さんはエスパーじゃないんだから、言葉にしないと誤解が解けないだろ!
「どっちも不可抗力だ。仕方なくやったから、俺の意思ではないから!」
「えっ?……そ、そうですよね?仕方なくですもんね」
うわー、絶対納得してない。いやまぁ、さっきの俺の説明で納得できる人はいないか……。
結局気まずくなった。半分以上俺が悪いけど……。
「んんっ。神崎君はどうして遅刻ばかりするの?」
天野さん。君はなんて良い娘なんだ。俺とは違って逃げるための話題転換ではなく、この微妙な空気を変えるために……。
「朝に弱いんだ。布団からなかなか出られないのが遅刻の原因のほとんど」
「それ、登校時間には起きてる?」
「日によっては。起きてるときは間に合うようにしてる……はず」
ここ二日は寝坊してないから、これを続けていけるようにしないと。もう、あまり余裕もない。休んだり、遅刻したりで欠課は貯まっているから最悪進級できない事態になる。
それをすると親に多分…………。いや、考えないほうがいいな。
「ちゃんとしてくださいね。選挙の結果に関わるかもしれないので」
「努力はする」
「努力じゃダメです。……はぁ。神崎君、朝電話しますから」
「えっ?」
「だから、朝に電話をします」
「えー」
「えー、じゃない。起きないのなら私が起こします!」
う~ん。これを許可すると何故だかこれから先もどんどん逃げ場がなくなっていく感じがする。そして、俺の本能が告げている。絶対に断れ!と。
どれだけ高校生の男子にとって嬉しい提案でも受け入れてはいけないと。
「…………いや、それは」
「神崎君の家に上がってもいいなら、お手製の朝ご飯もつけましょう」
「是非!!俺を毎朝起こしてください!!」
?????????
何を口走っているんだ、このドアホ!!俺の意思を無視して勝手に話すな!!ちくしょー。これ絶対まずい。あとで絶対後悔する。
今なら、訂正が出来るはず。
「というのは、じょうだn…………」
冗談と言えなかった。天野さんのやる気に満ちた笑顔を見て、俺の口はまたも俺の意思を無視して閉ざされた。
「そうと決まれば、明日からはもっと選挙の内容を話せるね」
その追い打ちに、俺は……負けてしまった。
負けたからには切り替えよう。そう、俺はかわいい子には勝てないのだ。
これは切り替えというより開き直りな気がする。
「そうだな。でも、いいのか?男の家に上がるなんてことして」
「うーん。そんなに問題ないと思ってます。神崎君のことは信用してますし、万が一があっても返り討ちにしてあげます」
「さいで」
俺にそんな度胸はないから、今の質問はあまり意味はない。ただで負けるのがなんとなく嫌だったから言ってみただけだ。
「返り討ちにあうのは嫌だからな、信用を裏切らないようにするよ」
「はい、そうしてくれると助かります。選挙までにまた、代理を探すのは骨が折れるので……」
ははは、笑えねぇ。再起不能に追い込まれるじゃないか、俺。
絶対服従!!それこそ命を守る術。
そんな風に話しながら歩いていると。
「さて、着きました。入りましょうか」
なんとなく歩いている方向から察していたが、街中にある大型ショッピングモールじゃないか。
ま、今はそれよりも……。
「天野さん……敬語」
「うぐっ。厳しいですね、神崎君」
「仕返し」
「薄々気付いてはいましたが、意地悪でしたか……」
そんな会話を交わした後、俺たち二人はモールの中に入った。
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明日は投稿休みます。m(_ _)m
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