第28話

 「遅かったな、神崎。また、志藤先生に怒られるぞ?」

 

 「遅刻はしてない……」


 先輩との邂逅の後、急いで化学室に向かい、ギリギリチャイムが鳴る寸前に教室に入ることが出来た。


 「ギリギリだったけどな。仮にも生徒会選挙に出るんだからさ、しっかりしろよ」


 「俺は出ないって。あくまで代理だし……」


 「だとしてもだ。お前の行動が天野さんの評価に関わってくるんだぞ?」


 「わかってるよ。けど、天野さんはそこは加味してるはずだ」


 そうでなければ、俺を代理にしたりしない。細かな理由は聞けなかったから、確証はないけど……。


 「そうかそうか。さすが天野さんだ。この蛆虫神崎とは大違い」


 「誰が蛆虫だ、誰が」


 「そこ。授業中にうるさい!……また、手伝わせる必要がある?」


 俺と林は首を振り、志藤先生は溜め息を吐く。


 「二人とも次はないから、気を付ける様に!」


 「「はい、姉御」」


 


 放課後。


 俺は校門で自転車を傍に立て、天野さんを待つ。


 校門で待ち合わせは今になって失敗だと思った。天野さんが来たらすぐに学校から離れるべきだな。長居すると絶対に面倒な奴に見つかって問い詰められる。


 それ以外の奴に見つかっても面倒になることは目に見える。誰かに見られれば、明日、天野さんに事情を直接聞けない奴らが俺のほうに来るだろう。


 連絡先は交換してるから、メッセージを送って待ち合わせ場所を変えればそう言ったことは防げるだろう。

 

 よし、そうと決まれば実行だ……。


 「おーい、神崎君?……聞こえてる?」


 「うわっ!」


 「大丈夫?体調悪いなら今日はやめておいたほうが……」


 いつから居たんだ天野さん。びっくりしたぁ、心臓飛び出るかと思った……。


 「体調は問題ないよ。考え事してたんだ、悪いね。それよりいつ来たの?」


 「今だよ。声かけても反応ないからびっくりしたけど」


 昼よりは敬語なしに慣れている話し方になっている気がする。そう簡単にあの感じが取れるとは思っていなかった、それとも友達相手にはため口でこっちが素なのか?


 「何?ジッとこっちを見て。何か付いてる?」

 

 「何も。早く行こうか」


 「ん?別に急いでないけど……」


 「目立ってるからさ。俺苦手なんだよ、こういう目立ち方」


 こういう好奇心と嫉妬心の混ざった目は最近向けられすぎてお腹いっぱいだ。そのたびに、逃げだしたい気持ちが膨れ上がっていく。


 「そうですか。じゃ、早く行こ?」


 グハッ。か、かわい過ぎる。


 「お供させていただきます、姫」


 膝立ちになり手を差し出し、そんなセリフを口走る。ハッ。な、何を言ってるんだ俺は……。


 「…………えっと、エスコートお願いします?」


 状況が飲み込めないながらも対応しよう差し出された俺の手に、手を乗せて赤面する天野さん。


 ほら~。天野さん困ってるじゃん。俺の馬鹿!

 でも、かわいい顔見れたから……よし、良くやった!俺。

 

 違う違う。こんなこと校門でやるやり取りじゃない。より目立ってるし、とっとと逃げよう。


 とりあえず天野さんの手を引いて校門を離れる。自転車は……多分先生が回収するか。ま、明日怒られればいいや。


 「天野さん、今日はどこ行く予定?」


 「…………」


 あれ?返事がないな。気になったので足を止め、後ろを向く。


 天野さんは俯いていて、俺が止まった後に遅れて止まる。


 「天野さん?」


 「ひゃいっ!」


 上ずった声を出して、顔を上げる。さっきよりも顔が赤くなっている。


 「天野さんのほうが体調悪いんじゃない?」


 「だ、大丈夫でひゅ」


 「大丈夫ならいいけど……。どこに行くか聞いてないからさ、向かう方向が分からなくて」


 「あの……。手を……」


 手?ああ、そうだった。校門からそのままだった。


 「悪い。嫌だったよな」


 「いえ、そういうわけではなくて……」


 これが社交辞令?!これから一緒に出掛けるときに気まずくならないように、本心を隠して……。


 「と、とにかく行きましょう。時間は有限です!」


 「天野さん……敬語」


 「い、今は許してください」


 赤面して縮こまる天野さんの隣を歩きながら、明日絶対詰められるなと思い、学校に行くのが嫌になった。

 


 


 


 

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