第27話

 とは言っても、何かすることを決めているわけではない。


 その方針等を決めるために生徒会室に来たのだ。まずは休み時間中に書いた大まかな演説の内容を天野さんに見せる。


 「休み時間で書いてみたんだ。修正とかあれば言ってくれ」


 「凄いですね。枠組みはこれでいいと思います。私が何か言うより神崎君の判断で進めてもらって構いません。そのほうが、いざという時のアドリブもしやすいと思います」


 本番何があるか分からないからな。そのほうがこっちとしても助かる。


 「枠組みは決まっているけど中身がなぁ」


 「それは昨日お話した通り、今日と明日の二日で決めましょう。そのために!今日の放課後は付き合ってもらいますからね」


 「わかってるよ。でも、何をするのか聞いてないんだけど……」


 「それはもちろん、デートです!」


 そりゃ、男女二人で出かけるならデートだろうけど……。そういうことを聞きたいわけじゃない。


 「そうだろうけど、そういうことじゃなくて。具体的にどこに行くとかさ」


 「むぅ~。思ってた反応と違いますけど今は置いておきましょう。それと、何処に行くかはお楽しみということで秘密です……」


 「そっか、なら楽しみしておこう。……あれ?じゃあ、もう今決めることなくない?」


 「ないです!」


 断言しちゃったよ、この娘。


 「しかし、お互いを知ることは今でも出来るので昼食を採りながら、話しませんか?」


 首をコテンと傾けてのお誘い……可愛いな!


 「いいよ。話を振ってくれるなら」


 「何でですか……」


 「俺は人見知りなので」


 「昨日あれだけ話したのに?!」


 クックック。俺はそれを引き出したかったんだよ、天野さん。 


 「それでいこう」


 「はい?」


 「同級生なんだしさ、距離を感じるから敬語はなしにしよう」


 天野さんは、一ノ瀬さんと違って時々口調が崩れることがある。昨日も少しだけあった。俺はそっちのほうが親しみやすいと思っていたから、この機会に伝えたのだ。


 「そうですか……」


 「ほら、それ。なしだって」


 「す、すみ……ごめんね?」


 ……思っていたより敬語禁止の道は遠いのかもしれない。


 「少しずつでいいよ、ふっ、はは」


 「笑わないでくださ……笑わないでよ」


 「うん、いいね。そのほうが親しみやすい」


 ともに選挙に挑む以上、これは大切だ。変に距離があると気を遣うし、面倒だと思ってしまうから主に俺のモチベーション確保のために必要なんだ。


 「も、もういいでしょ?早く食べよ?」


 「……いいねぇ」

 

 何か言い方がキモくなってしまった。ま、可愛い娘が目の前にいたらこうなるのも仕方ない。


 さて、話題話題っと。


 「天野さんはどうして生徒会に入ったんだ?」


 「んぐ。中学の時にもやっていたからかな。苦労することも多いけど、達成感がある感じが好きなんだ」


 昼食を食べながら、雑談をする俺たち。

 俺は普段とは違う穏やかな昼食を楽しんだ。




 「また、帰りに会いましょう。待ち合わせは……校門にしましょう」


 「敬語でてるよ?」


 「……癖でつい」


 「ははっ、また、放課後にね」


 「はい、また」


 昼休みが残り十分になったところで解散になった。そこまで結構盛り上がっていたので、打ち解けることは出来ただろう。


 あとは、彼女の長所と短所、出来ること出来ないことを知れば演説内容は書ける。

 そしたら、時間の許す限り練習するだけだ。


 「あれ~?神崎君だぁ~」


 背中のほうから声がした。

 このフワフワした声は、一先輩。


 「何か用ですか?」


 「つっめたな~。わたし傷ついちゃうな~」


 「ふぅ。用がないと話しかけてこない人でしょ?一先輩は」


 「そ~んなことないよ~」


 やっぱり苦手だ、この人の独特の雰囲気。何か理由をつけて逃げよう……逃げるべきだと頭の中で警鐘が鳴っている。


 「俺、次の時間移動教室なんで。そろそろ……」


 「天野ちゃんに何かを見たの?」


 雰囲気がガラッと変わる。先ほどのフワフワした雰囲気は消え、重苦しい空気が俺にのしかかる。これは、逃げ遅れたな……。

 

 「はぁ。過去のことで俺に関わってくるの辞めてもらえませんか」


 「質問の答えは言わないんだ?へぇ~」


 昏い瞳に俺が映っているのが見える。チッ。焦っているのが表情に出てるな、取り繕えるか……。


 そんな事を考えていたが、次の瞬間重苦しい感じが消える。そして一先輩が俺の隣に来る。

 

「まぁ、いいや。またね~。可愛い後輩君♪」


 そう言って先輩は去って行った。




 

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